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自治体のデジタル広告は、どの条件で増額・継続・縮小・停止すべきか

  • 7月18日
  • 読了時間: 15分

更新日:7月23日

本記事の要点

自治体のデジタル広告は、表示回数、クリック率、クリック単価、広告経由コンバージョンだけでは、増額・継続・縮小・停止を判断できません。


広告管理画面に表示される成果は、広告接触後に発生した成果であり、「広告がなければ発生しなかった追加成果」と常に一致するわけではないためです。また、これまでの平均的な獲得単価が良くても、次の追加予算で同じ効率を維持できるとは限りません。


増額すべきなのは、次の追加予算でも政策目的に対応する成果が増え、その追加成果の単価が許容範囲内にあり、予約枠、交通、相談体制、混雑、住民生活等にも余力がある場合です。


本記事では、広告の目的、広告後の導線、計測の信頼性、増分効果、追加予算の限界効果、公共的な制約の順に確認し、以下の五つの判断へ分ける方法を整理します。

  1. 増額

  2. 継続

  3. 縮小

  4. 停止

  5. 判断保留・追加調査


この記事を確認すべき人

特に確認する価値が高いのは、次のような状況にある自治体、観光協会、DMOです。

  • 次年度も前年と同額の広告費を計上すべきか判断している

  • 受託者から増額提案を受けたが、根拠がクリック単価や平均獲得単価にとどまっている

  • 広告レポートはあるが、予約、相談、来訪等との関係が分からない

  • 目標表示回数やクリック数を達成した後、予算をどう扱うか決まっていない

  • 広告クリックは多いが、サイト閲覧後の行動が増えていない

  • 複数の媒体間で広告費を配分し直したい

  • 議会、財政部門、管理職へ継続・増額の根拠を説明する必要がある



先に結論:予算は「過去の平均成績」ではなく「次の追加予算」で判断する

広告を増額する条件は、現在のクリック単価や獲得単価が良いことだけではありません。

次の追加予算によって、政策目的に対応する成果がどれだけ追加で生まれるか。その追加成果に対する費用が、自治体として許容できる範囲にあるか。さらに、予約枠、交通、相談体制、混雑、住民生活等に余力があるか。この三点を満たす必要があります。


判断は、原則として次のように分かれます。


増額

追加予算でも成果が増え、追加成果の単価が許容範囲内にあり、受入体制と公共的な制約にも余力がある場合です。


継続

広告の役割と成果、または検証を続ける価値は認められるものの、増額・縮小を正当化する証拠まではない場合です。


縮小

広告全体には価値があるものの、一部の対象、地域、時期、訴求では追加効果が弱い場合です。


停止

政策目的が失われた、広告後の導線が閉じている、十分な検証後も効果が許容範囲を下回る、または重大な負担・リスクがある場合です。


判断保留・追加調査

測定不良やデータ不足により、効果の有無を判定できない場合です。ただし、期限、暫定予算上限、追加取得データを定めます。


「成果があったか」と「予算を増やすべきか」は別の問いです。少額では有効でも、増額すると同じ人への反復が増え、追加成果がほとんど増えない場合があります。



広告管理画面の成果は、「広告が生んだ追加成果」とは限らない

広告管理画面では、広告へ接触した後に予約や申込等を行った件数が、広告経由の成果として表示されます。これは運用改善に有用ですが、広告がなければ発生しなかった件数と常に一致するわけではありません。


例えば、もともと当該地域への旅行を検討していた人が広告を見た後に予約した場合、管理画面では広告成果として計上される可能性があります。しかし、その予約が広告によって新たに生まれたのか、広告がなくても予約されたのかは別に確認する必要があります。

オンライン広告を対象とした大規模研究では、広告接触者と非接触者の観測データを統計的に調整しても、無作為化実験で確認された効果を安定して再現できないことが報告されています。広告配信自体が、関心や行動可能性の高い人を選んで行われるためです。



このため、広告後に起きた行動を全て広告の効果とみなすのではなく、「広告がなければどうなっていたか」と比較する必要があります。ここで確認するのが、広告によって新たに生じた増分効果です。


Google広告の「コンバージョン リフト測定」公式説明も、広告による因果的な増分を確認するための実験機能として説明されています。ただし、全てのアカウントや予算規模で利用できるとは限りません。


最初に、広告が担う成果を一つ定める

広告の成否を判断する前に、その広告がどの段階を担うのかを確定します。

観光部門であれば、次のような役割が考えられます。

  • 重点市場で地域の存在を知ってもらう

  • 閑散期の旅行先候補として理解してもらう

  • 公式サイト、旅行商品、予約ページへ移動してもらう

  • 対象商品の予約、イベント申込、クーポン取得等を促す

  • 特定地区への周遊や、需要の平準化を促す

シティプロモーション部門では、地域認知、政策や暮らしの理解、関係人口施策への参加、移住相談、採用応募等が候補になります。


ここで、認知広告を予約件数だけで評価することは適切ではありません。一方、予約を促す広告を表示回数だけで成功とすることも不十分です。

目的に応じて、増額判断に使う主成果を選びます。

  • 認知目的:重点対象者における認知、理解、想起の変化

  • 比較・検討目的:詳細情報、商品、交通、日程等への到達

  • 行動目的:有効な相談、予約、申込、資料請求、クーポン利用等

表示回数、動画再生、クリック等は不要な数字ではありません。ただし、通常は、主成果が動いた理由、または動かなかった理由を探る診断指標として使用します。


観光庁「観光地域づくり法人(DMO)によるKGI・KPI計測に係る手引書」も、旅行消費額や経済波及効果等の地域全体の成果と、Webアクセス、再来訪意向、旅行商品販売等のDMO活動に近い成果を分けています。


広告単独に地域全体の成果責任を持たせず、地域成果との関係を失わない範囲で、広告が直接働きかけられる成果を設定する必要があります。


観光施策全体の指標階層については、「観光施策のKGI・KPIはどう設計すべきか」で詳しく整理しています。


広告数値より先に、広告後の導線と受入能力を確認する

広告を増やしても、対象者が次の行動を取れなければ政策成果は増えません。

例えば、次の状態がないかを確認します。

  • 料金、開催日、交通、所要時間、対象条件が分からない

  • 予約ページへ進めない、または操作しにくい

  • 予約できる商品、空室、参加枠がない

  • 移住相談や資料請求への対応が遅い

  • 現地で二次交通や案内が不足している

  • 繁忙期へ需要が集中し、混雑が悪化している

この状態でクリック率を改善しても、離脱する人数を増やすだけになる場合があります。

広告からサイトへの流入は多いが、その後の行動が増えない場合、最初の選択肢は広告増額ではありません。LP、商品、予約、相談対応、交通、現地受入のどこで止まっているかを確認し、必要であれば広告費の一部をボトルネックの改善へ振り替えます。


実際に、日南市「令和8年度日南市デジタルプロモーション事業等業務委託仕様書」では、広告流入後のLPについて、来訪予約、クーポン取得、相談申込等へ誘導する導線と、成果計測用のサンクスページの設計を求めています。

広告配信と、その後の行動環境を別々の問題として扱わないことが重要です。


原因を切り分ける七つの順序

広告の成果が良い、または悪いと見える場合は、次の順序で確認します。

1.政策目的と広告の担当範囲

地域全体の来訪者数や旅行消費額には、広告以外にも、商品、価格、交通、天候、為替、報道、イベント、受入能力等が影響します。

広告単独に地域全体の成果責任を持たせず、広告が直接働きかける段階を特定します。


2.広告後の導線と供給

サイト、予約、相談、商品、在庫、空室、交通等を確認します。ここが閉じている場合、広告増額を保留します。


3.計測の信頼性

コンバージョンの定義、重複計測、計測期間、タグ変更、広告経由以外を含む全体件数との整合を確認します。

前年と計測定義が違えば、数値の単純比較はできません。


4.対象者への到達と訴求

安価なクリックが増えても、重点対象者でなければ政策上の価値は限定的です。

地域、年代等の属性だけでなく、旅行時期、関心、検討段階、求める情報との適合を確認します。


5.広告がなかった場合との比較

可能であれば、広告を配信しない対象群を設ける実験を行います。難しい場合は、非配信地域、配信時期のずれ、段階的な予算変更、事前・事後調査等を組み合わせます。

ただし、単純な前年同月比だけでは、季節、イベント、天候、交通等の影響を除けません。複数の証拠が同じ方向を示すかを確認します。


6.追加予算の限界効果

これまでに100万円を投じて10件の成果が得られたとしても、次の50万円で5件増えるとは限りません。

予算帯、対象、時期ごとに、追加支出と追加成果を確認します。


7.公共的なガードレール

成果が増えても、特定地点の混雑、住民不満、事業者や職員の負荷、情報アクセシビリティ、個人情報上の懸念が悪化するなら、増額が最善とは限りません。


増額判断には「追加成果1件当たりの費用」を使う

これまでの広告費全体を、これまでに計測された成果全体で割った値は、平均成果単価です。これは実績把握には使えますが、次の追加予算の判断には不十分です。

増額判断では、次の値を確認します。

追加成果1件当たりの費用 = 追加した広告・制作・分析費 ÷ 広告によって追加で生じたと推定される成果

認知目的なら、追加で認知・理解した重点対象者一人当たりの費用。予約目的なら、追加予約一件当たりの費用。相談目的なら、対象条件を満たす追加相談一件当たりの費用となります。

この費用を、次の基準と比較します。

  • 自治体が政策上許容できる上限

  • 過去の同一条件における追加成果単価

  • 別媒体・別施策へ予算を振り替えた場合の成果

  • 広告以外のボトルネックを改善する費用

  • 成果を受け止めるために追加で必要となる運用・受入費用

業界平均のクリック単価を下回ったことだけでは、自治体にとって有効な追加成果が生まれたとは判断できません。


増額する条件

増額が妥当なのは、主に次の条件が揃う場合です。

  1. 広告の目的と主成果が明確である

  2. 広告後に行動できる導線、商品、受入枠がある

  3. 広告がなかった場合と比べた追加効果が、少なくとも合理的に見込める

  4. 次の追加予算帯でも、追加成果の単価が許容範囲内である

  5. 対象者が飽和しておらず、追加予算が新たな重点対象へ届く

  6. 混雑、住民不満、事業者負荷等が許容範囲内である

  7. 契約上、配分変更と検証が可能である

増額は一度に行わず、段階的に行う方が、追加予算の効果を確認しやすくなります。

一定量を追加した後、追加到達、対象者の質、追加成果単価、同じ対象者への接触の偏り、受入負荷を再確認します。増額幅に全自治体共通の正解はありません。


継続する条件

継続は、判断を先送りすることではありません。

広告の役割が現在も必要で、成果または検証を続ける価値が認められる一方、増額・縮小を正当化する証拠が不足している場合には、現状維持が合理的です。

ただし、次の判断日、取得するデータ、検証する仮説を決めます。

認知や地域イメージ形成のように効果が遅れて現れる施策では、短期の予約だけで停止しない方がよい場合があります。その場合も、認知、理解、想起、検索、詳細情報への到達等の中間成果を測り、無期限継続を避けます。


縮小する条件

広告全体を止める必要はなくても、次の状態では縮小または配分変更が候補になります。

  • 一部地域、対象、時期だけ追加成果が弱い

  • 追加予算が同じ人への反復を増やすだけになっている

  • クリックは増えるが、重点対象者や有効な行動が増えない

  • 広告全体の効果はあるが、追加成果単価が代替施策より悪い

  • 予算を減らしても必要な検証量と最低限の到達を維持できる

  • 受入体制や住民負荷の上限へ近づいている

縮小時には、単に総額を減らすのではなく、どの対象、地域、時期、訴求を残すかを明示します。


停止する条件

次のいずれかが明確な場合、停止または期限付き休止を検討します。

  • 現在の政策目的と接続していない

  • 広告後の予約、相談、商品、交通等が閉じており、改善時期も決まっていない

  • 事前に定めた検証量を確保した後も、追加効果が許容範囲を下回る

  • 対象、訴求、導線を改善しても、次に検証する仮説がない

  • 重大な個人情報、契約、公平性、住民負荷上の問題がある

  • 他の施策へ振り替えた方が、同じ政策目的へ明らかに近づける

停止時には、管理画面、元データ、クリエイティブ、対象設定、計測定義、変更履歴を保存します。

停止を失敗の記録だけにせず、次回の発注と検証に使える知識として残す必要があります。


効果が確認できないとき、直ちに停止してよいとは限らない

広告の一人当たり効果が小さく、予約や購買等の変動が大きい場合、非常に大きな標本がなければ効果を精密に推定しにくいことが知られています。

LewisとRao「The Unfavorable Economics of Measuring the Returns to Advertising」は、大規模な広告実験であっても投資収益率の推定幅が広くなり得ることを示しています。

小規模な自治体広告では、「統計的に明確な差が出なかった」ことが、そのまま「効果がゼロだった」ことを意味しない場合があります。

この場合には、次の選択肢があります。

  • より広告に近く、件数を確保できる中間成果を測る

  • 対象や訴求を絞り、小さな仮説を検証する

  • 配信期間または比較期間を見直す

  • 地域、期間、予算帯を段階的に変える

  • 広告費を縮小し、最低限の検証を継続する

  • 測定費が広告費に見合わない場合は、精度の限界を明示して複数の証拠で判断する

重要なのは、「効果不明」と「効果なし」を分けることです。

同時に、効果不明を理由に前年度踏襲を続けることも避けなければなりません。判断保留には、期限、暫定予算上限、追加取得データを設定します。


観光部門とシティプロモーション部門では、同じ数字を使わない

観光広告は、予約、イベント申込、旅行商品閲覧、クーポン利用、来訪後調査等へ接続できる場合があります。ただし、来訪や旅行消費には広告以外の要因も多く、広告単独の成果と断定しないことが必要です。

シティプロモーション広告では、地域認知、理解、好意、誇り、関係人口、移住相談等、異なる時間軸の成果が混在します。

好意度や動画再生数だけで政策効果とすることはできませんが、短期の移住者数だけで認知広告を停止することも適切ではありません。

両部門に共通するのは、広告が直接担う変化と、その先の政策成果を分け、両者を結ぶ条件を確認することです。


委託仕様書には「配信内容」だけでなく「変更条件」を入れる

年度途中で予算配分を変えるには、契約上の余地が必要です。

仕様書・実施計画では、少なくとも次を整理します。

  • 広告が担う目的と主成果

  • 基準値、目標値、指標定義、データ源

  • 自治体が閲覧・保有するアカウントと元データ

  • 広告費、制作費、分析費等の区分

  • 対象、訴求、媒体、予算帯別の報告

  • 増額、配分変更、縮小、休止を協議する条件

  • 比較方法と、比較不能な場合の扱い

  • 受入能力と公共的なガードレール

  • 委託終了時に返却するデータ、設定、素材、変更履歴

栃木県「令和8年度とちぎ観光デジタルマーケティング業務」関係資料では、広告の表示、クリック、LP閲覧、広告経由コンバージョン等の報告に加え、広告アカウントの閲覧権限を県へ付与することが示されています。

数値の報告だけでなく、自治体側が広告設定、元データ、変更履歴を確認できる状態を残すことが、翌年度以降の比較と発注判断に必要です。

具体的な契約変更の可否は、各自治体の契約・会計・調達担当へ確認する必要があります。


自組織だけで判断できる場合、外部支援は必須ではない

広告の目的、導線、全体成果、比較対象、追加成果単価、受入能力を自治体内部で整理できる場合、外部支援は必須ではありません。

一方、次のような場合は、広告運用事業者とは別の立場からの確認が有効なことがあります。

  • 複数の委託先で指標とデータが分断されている

  • 増額提案を、発注者側で査定する基準がない

  • 広告、LP、商品、予約、受入のどこが問題か分からない

  • 次年度仕様書に、配分変更・縮小・停止条件を入れたい

  • 管理画面の実績を、議会・財政部門へ説明できる形に変換したい

株式会社Kerzeでは、特定媒体の運用成績だけでなく、施策目的、指標、導線、費用、委託範囲を整理し、継続・変更・終了を判断できる状態をつくる支援を行っています。

ただし、契約変更、個人情報、行政文書、法令解釈等の法的判断は、自治体の担当部署または各分野の専門家へ確認すべき領域です。


まとめ

自治体のデジタル広告は、クリック率や広告経由コンバージョンの良し悪しだけで増減を決めるものではありません。

最初に広告が担う成果を定め、広告後の導線と受入能力を確認します。その後、計測の信頼性、対象・訴求、広告がなかった場合との差、追加予算の限界効果、公共的な負担の順に判断します。

増額すべきなのは、これまでの平均成績が良いときではなく、次の追加予算にも政策上の価値が見込めるときです。

継続、縮小、停止、判断保留も、それぞれ積極的な意思決定です。

広告予算を使い切ったかではなく、どの条件で配分を変えたかを説明できる状態をつくることが、自治体の広告評価には求められます。


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主要参考文献・参考資料

※本記事は2026年7月18日時点で確認できる公表資料・研究・公式情報に基づいています。広告プラットフォームの機能、制度、自治体の契約条件等は変更される可能性があるため、実務適用時には最新情報を確認してください。

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