top of page

観光プロモーションの媒体選びは、「何を始めるか」ではなく「何を止めるか」

  • 5月21日
  • 読了時間: 13分

本記事の要点

観光プロモーションでは、新しいSNS、動画、広告、パンフレット、特設サイト等を始める判断に比べ、既存の取組を止める判断が曖昧になりがちです。その結果、目的や対象が重なる媒体が残り、更新、確認、発注、効果測定に必要な業務が積み上がります。


観光庁「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」は、プロモーションを、ターゲットの明確化、目的の明確化、メッセージ作成、媒体の検討、予算確保、実施、効果測定、戦略の再設計という順序で整理しています。媒体は先に選ぶものではなく、促したい意識変容・行動変容に応じて選び、結果を測定して再設計する対象です。


同ガイドブックに「媒体を止めるべき」と書かれているわけではありません。本記事の「何を止めるか」は、効果測定と再設計を実務上の意思決定へ変換した編集上の整理です。再設計には、継続や改善だけでなく、重複業務の統合、更新頻度の縮小、期間を定めた休止、媒体の終了も含まれます。


ただし、媒体数を減らすこと自体が目的ではありません。少数の利用者にしか届かなくても欠かせない情報、公式性が必要な情報、旅行中の判断を支える情報等は、単純な閲覧数だけで止めるべきではありません。必要なのは、各媒体を継続する理由と、変更・終了する条件を説明できる状態です。


この記事を確認すべき人

本記事は、次のような状況にある自治体、観光DMO、観光協会、地域商社、観光事業者を主な対象としています。


  • SNS、公式サイト、特設サイト、紙媒体等が年々増えている

  • 各媒体の対象者と役割を説明しにくい

  • 投稿本数、閲覧数、フォロワー数の報告だけで継続が決まる

  • 委託事業が前年度踏襲になり、終了条件がない

  • 似た情報を複数の担当者・受託者が制作している

  • 更新できていないページやアカウントが残っている

  • 新しい媒体を始めたいが、担当者や予算を増やせない

  • 媒体を止めたいものの、関係者へ説明する根拠がない


原資料の位置付け

中心資料は、観光庁が2022年12月27日に公表した「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」です。これは法令や登録要件ではなく、DMO、地方公共団体、観光関係事業者等が科学的な観光地域マーケティングを実践するための参考資料です。


あわせて、東北運輸局が2025年3月14日に公表した「データドリブンな観光地域マーケティングを実現するための実践マニュアル」を確認しました。同マニュアルは、観光庁のガイドブック等を基礎としつつ、準備・環境整備、データ収集、意思決定の3段階へ実務を整理した資料です。


登録DMOについては、「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」も関係します。2025年3月25日改正、同年10月1日施行の現行ガイドラインは、登録・更新登録の要件を定める資料です。登録DMOには、データの継続的な収集・分析、観光地経営戦略、KPI、PDCA、関係者間の役割分担等が求められます。


ガイドラインの要件は、登録DMO以外の自治体や観光協会へそのまま義務付けられるものではありません。ただし、目的、指標、評価、役割分担に基づき事業を見直す考え方は、他の観光組織にも参考になります。



観光庁のガイドブックは、媒体を起点にしていない

ガイドブックが示すプロモーション戦略の策定・実行は、次の8段階です。

  1. ターゲットの明確化

  2. プロモーション目的の明確化

  3. メッセージの作成

  4. プロモーション・ミックスの検討

  5. 予算の確保

  6. プロモーションの実施

  7. 効果測定

  8. プロモーション戦略の再設計

さらに実践段階では、まずターゲットに促したい意識変容・行動変容を定め、その目的に適した媒体を選び、クリエイティブを作成し、KPIを設定すると説明しています。


ここから読み取れるのは、「Instagramを始める」「動画を作る」「特設サイトを開設する」という媒体起点の検討は、順序が逆になり得るということです。先に確認すべきなのは、誰の何を変えたいのか、既存の接点では不足しているのか、その不足をどの媒体が補うのかです。


一方、ガイドブックは、広告、広報活動、販売促進、人的販売、口コミには異なる目的があり、いずれか一つだけでよいわけではないとも説明しています。したがって、本記事の結論は「媒体を少なくすればよい」ではありません。必要な機能の組合せは残しながら、同じ機能を重複して担う媒体や、目的を失った業務を見直すことが要点です。


「止める」は、媒体を削除することだけではない

停止判断を「アカウントを閉鎖するか否か」の二択にすると、実務では判断しにくくなります。見直しの単位は、少なくとも次のように分けられます。

判断

意味

継続

現在の役割と運用を維持する

公式サイトの基本情報を維持する

改善

役割は必要だが内容・対象・測定方法を変える

SNSの投稿テーマを対象者別に組み直す

縮小

役割を限定し、頻度・予算・制作量を減らす

毎週発行を月1回へ変更する

統合

重複する媒体・ページ・制作工程を一つにまとめる

類似する特設サイトを公式サイトへ移管する

休止

期間と再開条件を定めて止める

季節外の広告配信を停止する

終了

役割、移管先、保存方法を決めて閉じる

更新不能な独立アカウントを終了する

この区別があれば、「止めることへの賛否」ではなく、どの機能をどこへ残すかを議論できます。


止める対象を判断する四つの観点

1.戦略との整合性

その媒体が、現在の対象者、重点時期、重点エリア、促したい行動と合っているかを確認します。過去に設定した対象者のまま運用されている場合、媒体の成績以前に、戦略とのずれが生じている可能性があります。


確認する問いは、次のようなものです。

  • 誰に届ける媒体か

  • 認知、理解、比較、予約、旅行中の判断、再接触のどれを担うか

  • その役割は現在の観光戦略や年度計画に必要か

  • 役割を果たした後、旅行者はどこで次の行動を取れるか


2.機能の固有性

別の媒体が同じ対象者へ同じ情報を届けている場合、重複の有無を確認します。ただし、同じ内容が複数箇所にあるだけで、直ちに無駄とは限りません。公式サイトは正確な情報、SNSは更新通知、現地の紙媒体は旅行中の参照というように、内容が似ていても役割が異なる場合があります。

止める候補になりやすいのは、別の媒体へ移しても利用者の判断を損なわず、固有の対象者、機能、データ、信頼性を持たない媒体です。


3.成果と学習可能性

表示回数や投稿本数だけでなく、その媒体に期待した変化が起きたかを確認します。認知が目的なら対象者への到達や検索の変化、比較・検討が目的なら詳細閲覧や次のページへの移動、来訪促進が目的なら予約・申込・来訪時の参照等が候補になります。


ただし、直接の予約件数を取得できない媒体もあります。その場合は、完全な因果関係を証明できないことを理由に即時終了するのではなく、識別可能なURL、質問項目、期間比較、対象地域比較等により、判断材料を増やせるかを確認します。


一定期間を設けても成果を判断できず、測定方法も改善できず、次の検証仮説もない場合は、漫然と継続するより、縮小・休止を含めて見直す合理性があります。


4.運用負荷とリスク

媒体には、制作費だけでなく、情報収集、事実確認、承認、翻訳、投稿、問い合わせ、訂正、権限管理、効果測定等の業務が伴います。


特に、営業時間、料金、交通、開催条件、予約方法等が古いまま残る媒体は、更新頻度が低いだけではなく、旅行者の判断を誤らせるリスクがあります。必要な更新責任者と確認工程を確保できない場合は、情報量を減らす、更新元を一つにする、公式情報への参照に切り替えるといった見直しが必要です。


媒体を止める候補となる状態

次の条件は、一つ当てはまれば直ちに終了という基準ではありません。複数の条件が重なり、改善可能性も低い場合に、統合・休止・終了の候補となります。

  • 対象者と目的を説明できない

  • 現行の観光戦略や年度目標と接続していない

  • 他媒体と役割が重なり、固有の機能がない

  • 情報の更新責任者が不在で、正確性を維持できない

  • 成果指標が実施量だけで、期待した変化を確認できない

  • 十分な検証期間を経ても成果が見えず、改善仮説もない

  • 制作・確認・発注の負荷が、得られる価値に対して大きい

  • 利用者を失わず、別の媒体へ機能と情報を移管できる

ここでいう「十分な検証期間」は、媒体ごとに異なります。季節性の強い観光地で1か月の数値だけを見たり、公開直後の公式サイトを短期評価したりすることは適切ではありません。判断時期と必要なデータは、実施前に決めておくことが望まれます。


数字が小さくても、止めない方がよい場合

次のような媒体・情報は、利用量だけで判断しない方がよい場合があります。

  • 公式性や正確性の基準となる情報

  • 災害、運休、休業、入場条件等の重要情報

  • 高齢者、外国人、障害のある旅行者等、特定の利用者に必要な情報

  • 旅行中の限られた場所・場面で参照される情報

  • 少数でも予約・購買の確度が高い対象者へ届く媒体

  • 将来比較のために保存すべき記事・ページ・調査記録

  • 試験運用中で、評価時期に達していない媒体

また、媒体を終了しても、公開記録や取得データまで消去してよいとは限りません。行政文書、個人情報、契約、著作権、アカウント管理等の取扱いは、組織の規程と専門部署の確認が必要です。


媒体棚卸しで最低限整理する項目

媒体を一覧にするだけでは、停止判断には足りません。媒体・アカウント・紙媒体・広告施策等の単位ごとに、次を整理します。

項目

確認内容

対象者

誰が、どの旅行段階で利用するか

主な役割

認知、理解、比較、予約支援、現地案内、再接触等

期待する変化

何を知る、理解する、検討する、予約する、訪れる等

次の接点

利用後、どの情報・予約・現地対応へ移るか

固有性

他媒体では代替できない機能・信頼・利用者があるか

成果

役割に対応する結果と、確認できない部分

負荷

年間費用、担当時間、承認、更新、問い合わせ等

リスク

古い情報、権限、個人情報、契約、依存先等

判断

継続、改善、縮小、統合、休止、終了

次回確認

判断日、確認者、再評価条件

媒体別の成果を比較するときは、全媒体を同じ指標で並べないことが重要です。公式サイト、SNS、広告、パンフレット、観光案内所では役割が異なります。役割が違うものを閲覧数や単価だけで順位付けすると、必要な機能まで削る可能性があります。


停止判断は、終了後の設計まで含む

媒体を止めるときは、停止日だけでなく、次の事項を決めます。

  1. その媒体が担っていた情報・機能を残すか

  2. 残す場合、どの媒体・担当者へ移管するか

  3. 利用者へいつ、どのように案内するか

  4. 旧URL、検索結果、リンク、印刷物をどう扱うか

  5. アカウント、データ、素材、契約、権限をどう保存・返却するか

  6. 問い合わせ先をどこへ集約するか

  7. 解放された予算・時間を何へ振り向けるか

特設サイトを閉じても、検索結果や外部サイトから旧URLへの流入は残ります。可能であれば、公式サイト内の後継ページへ案内し、利用者が情報を見失わないようにします。SNSアカウントも、突然削除するのではなく、終了案内や後継媒体を一定期間表示する方が適切な場合があります。


年度事業・委託仕様書へ停止条件を入れる

観光プロモーションが前年度踏襲になりやすい理由の一つは、開始時に終了条件を決めていないことです。事業計画や委託仕様書には、実施内容だけでなく、次の確認事項を含めると判断しやすくなります。


  • 媒体ごとの対象者、役割、期待する変化

  • 評価指標とデータ取得方法

  • 月次・四半期・年度で判断する事項

  • 改善、縮小、配分変更、休止を行う条件

  • 受託者が提出する媒体別の費用・成果・改善案

  • 媒体間の重複を確認する会議体

  • 委託終了時のアカウント、データ、素材の返却方法


変更可能性を仕様書に明記しておけば、年度途中の配分変更や制作量の調整を、単なる契約逸脱ではなく、検証結果に基づく運用として扱いやすくなります。具体的な変更が契約上可能かどうかは、契約条件と自治体の調達・会計ルールを別途確認する必要があります。


よくある誤解

反応が少ない媒体は止めればよい

反応数は判断材料の一つにすぎません。目的、利用場面、対象者の規模、公式性、代替手段を確認する必要があります。


無料のSNSは残しても損をしない

利用料が無料でも、情報収集、制作、確認、問い合わせ、権限管理には人件費がかかります。更新されない公式アカウントは、利用者へ誤解を与える可能性もあります。


新しい媒体を始めるために、古い媒体を一つ閉じればよい

媒体数の帳尻を合わせることが目的ではありません。新旧それぞれの役割を比較し、移管できる機能と失われる機能を確認します。


効果を厳密に証明できない媒体は止めるべきだ

観光行動には複数の接点が関わるため、単一媒体の因果効果を完全に識別できない場合があります。測定限界を示したうえで、複数の証拠と運用負荷から判断します。


一度終了すると、失敗を認めたことになる

目的、対象、市場、技術、組織体制が変われば、適切な媒体構成も変わります。事前に決めた条件に基づく終了は、失敗の隠蔽ではなく、限られた予算と人員を再配分する意思決定です。


過剰に反応しなくてよい点

  • 媒体を一斉に廃止する必要はありません

  • フォロワー数や閲覧数が少ないだけで終了する必要はありません

  • 全媒体の成果を予約件数だけで測る必要はありません

  • 紙媒体をデジタルへ置き換えれば必ず効率化するわけではありません

  • 毎年度、新しい媒体を追加する必要はありません

  • 判断材料が不足する場合は、直ちに終了せず、期限を定めた改善・検証を行えます

まずは、同じ情報を複数箇所で更新している部分、担当者が不明な部分、目的を説明できない制作物から確認する方が現実的です。


株式会社Kerzeが支援できる範囲

株式会社Kerzeは、観光施策の目的、対象者、媒体の役割、現場運用、評価、会議体、内製・外注の分担を整理し、継続・変更・終了を判断できる状態をつくる支援を行っています。


具体的には、媒体棚卸し、役割の重複確認、評価指標、媒体別の費用・業務量整理、更新責任、委託仕様書、定例会議の判断項目、停止・移管計画等が支援範囲です。


観光施策全体の指標階層は「観光施策のKGI・KPIはどう設計すべきか」、実施量と成果の区別は「アウトプットとアウトカムを混同しない観光事業評価」、情報発信と予約・販売の役割分担は「観光コンテンツの情報発信と販売チャネルの違い」で整理しています。



株式会社Kerzeの射程外

行政文書の保存・廃棄、個人情報、著作権、契約変更、調達・会計、アカウント終了に伴う法的判断は、自治体・組織の担当部署や専門家へ確認すべき領域です。

また、特定媒体の継続・終了による来訪者数、旅行消費額、売上等を保証するものではありません。媒体の成果は、商品、価格、販売、交通、受入、季節、競合、市場環境等の影響も受けます。


まとめ

観光プロモーションの媒体選定は、「次に何を始めるか」を考えるだけでは完了しません。既存媒体の役割、成果、重複、運用負荷を確認し、継続、改善、縮小、統合、休止、終了を判断する必要があります。


観光庁のガイドブックが示すのは、媒体ありきではなく、ターゲット、目的、メッセージ、媒体、KPI、効果測定、再設計という順序です。本記事の「何を止めるか」は、その再設計を実務へ移すための問いです。


止めるべきなのは、必ずしも媒体そのものではありません。目的を失った更新、重複した制作、測定しない配信、責任者のいない情報管理、前年度踏襲の発注を止めるだけでも、必要な媒体へ人員と予算を振り向けやすくなります。

各媒体について、なぜ続けるのか、どの条件で変えるのか、終了時に何を残すのかを説明できれば、新規施策を増やさなくても、観光プロモーション全体を改善できます。


原資料・関連資料

※本記事の情報は2026年5月21日時点で確認したものです。媒体の終了・移管に当たっては、各組織の規程、契約、保存義務、個人情報・著作権、調達・会計上の条件を確認してください。

bottom of page