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旅マエ・旅ナカ・旅アト、1つの媒体に全ての役割を持たせてよいか

  • 6月19日
  • 読了時間: 14分

更新日:7月23日

本記事の要点

同一の公式サイトやSNSを運用し、旅マエ・旅ナカ・旅アト全ての情報提供を担うこと自体に問題はありません。むしろ、集約せずに複数の媒体を段階ごとに分けて運用すると、旅行者が迷い、地域側の更新業務も増える可能性があります。


一方、同一の媒体を使うことと、3つのフェイズ向けの発信全てに同じ役割を持たせた発信をすることは別です。

旅行前には比較・計画・予約を支える情報、旅行中には現在地と時間に応じた判断を支える情報、旅行後には記録、意見、再接触、次回訪問につながる情報が求められます。必要な鮮度、情報量、次に促す行動、更新責任、評価指標も異なります。


観光庁「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」は、ターゲットとなる旅行者の旅マエから旅アトまでの行動をカスタマージャーニーとして可視化し、各接点で取得できるデータや施策を検討する考え方を示しています。


また、「訪日外国人旅行者向け観光コンテンツ販路構築の手引き」は、プレ旅マエ、旅マエ、旅ナカ、旅アトでは、必要な情報や情報取得方法、決めることが異なると説明しています。


本記事では、旅マエ・旅ナカ・旅アトという区分自体を解説するのではなく、既に同じ媒体を運用している自治体、観光DMO、観光協会等が、段階ごとの役割をどう分け、どこまで共通化するかを整理します。


この記事を確認すべき人

特に確認する価値が高いのは、次のような組織です。

  • 公式サイトやSNSで、旅行前・旅行中・旅行後の情報が混在している

  • SNSは認知、公式サイトは詳細情報という分担だけでは整理しきれない

  • 旅行中に必要な営業時間、交通、催行情報が見つけにくい

  • 旅行後のアンケート、投稿、再訪案内が単発で終わっている

  • 同じ記事や投稿に複数の目的を持たせ、評価できなくなっている

  • 媒体別の担当者はいるが、旅行段階をまたぐ情報更新の責任者がいない

  • 旅マエの閲覧数は把握しているが、旅ナカ・旅アトの利用を確認できない

  • 新しいアプリやアカウントを作る前に、既存媒体で対応できるか判断したい


原資料の位置付け

中心資料である「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」は、観光庁が2022年12月27日に公表した実務参考資料です。法令や登録要件ではなく、DMO、地方公共団体、観光関係事業者等が、データに基づく観光地域マーケティングを進めるための考え方を示しています。


「訪日外国人旅行者向け観光コンテンツ販路構築の手引き」は、国土交通省中部運輸局が2024年度調査事業の成果物として公表した実務資料です。主に訪日外国人旅行者向けの観光コンテンツとDMOの販路構築を対象としているため、国内旅行者向け事業へそのまま適用する資料ではありません。ただし、旅行段階ごとに必要情報・接触媒体・判断事項が異なるという整理は、本記事の論点にも参考になります。


第5次観光立国推進基本計画は、2026年3月27日に閣議決定された2026~2030年度の政府計画です。同計画は、旅行者の旅マエ・旅ナカ・旅アトの予約、移動、宿泊、購買等のデータをマーケティングと観光地経営の戦略策定へ活用する方針を示しています。これは個々の自治体へ特定媒体の導入を義務付けるものではありません。


旅行段階が変わると、同じ人の問いも変わる

旅行者は、同じ地域について調べる場合でも、旅行段階によって異なる判断をします。

段階

旅行者の主な問い

情報に求められる性質

媒体が担う主な役割

旅マエ

行く価値があるか、いつ行くか、何を組み合わせるか、予約できるか

比較可能性、全体像、計画性、予約条件

認知、理解、比較、計画、予約先への接続

旅ナカ

今行けるか、どう移動するか、何を選ぶか、困ったときどうするか

現在性、位置、時間、空き状況、正確性

現地判断、不安解消、移動・購買・参加支援

旅アト

どう記録・共有するか、意見を届けるか、もう一度関わるか

記憶、関係性、許諾、個別性、継続性

感想・評価、共有、再接触、再購入・再訪のきっかけ

例えば、飲食店を紹介する同じページでも、旅行前には地域全体の食の特徴、価格帯、予約方法が重視されます。旅行中には、現在営業しているか、現在地から行けるか、待ち時間や決済方法が重要になります。旅行後には、店名を再確認し、感想を投稿し、商品を購入し、次回の候補として保存できることが価値になります。


情報の対象が同じでも、利用者が解決したい問題は同じではありません。


同じ媒体を使ってもよいが、同じ役割にはしない

同じ媒体を使う場合、少なくとも次の五つは旅行段階ごとに確認する必要があります。


1.提示する情報

旅マエでは、地域の特徴、モデルとなる過ごし方、選択肢、費用、予約条件等を整理します。旅ナカでは、営業・運行・開催状況、位置、移動時間、当日参加、問い合わせ先等の情報が優先されます。旅アトでは、訪問先の再確認、感想や写真の共有方法、アンケート、商品購入、次回情報の受け取り方等が候補になります。


2.次に促す行動

同じSNS投稿でも、旅マエなら詳細確認・保存・予約、旅ナカなら地図表示・電話・当日申込み、旅アトなら投稿・レビュー・登録・再購入等、次の行動が異なります。

一つの投稿やページに全ての行動を並べると、何をすべきか分かりにくくなる場合があります。主要な行動を一つ決め、その他は補助情報として配置する方が適切です。


3.情報の鮮度

旅マエ向けの地域紹介は、一定期間利用できる情報として蓄積できます。一方、旅ナカ向けの営業時間、運休、満席、天候、臨時休業等は、短時間で更新されなければ価値を失います。

同じ公式サイトで扱う場合も、長期利用する基本情報と、当日性の高い情報を区別し、更新日時、情報源、担当者を示す必要があります。


4.運用責任

旅行前の紹介記事は広報担当者が制作できても、旅行中の運休・休業情報は交通事業者、施設、イベント主催者等から迅速に受け取らなければ更新できません。旅行後のアンケートやメール配信では、取得した情報の管理、同意、配信停止等の運用も必要です。

同じ媒体を一人の担当者が管理していても、元情報を誰が確認し、誰が変更を承認し、何分・何時間以内に反映するかは、情報ごとに異なります。


5.評価指標

旅マエでは対象者への到達、保存、詳細閲覧、予約先への移動等、旅ナカでは地図・経路・電話・当日予約等の利用、旅アトではレビュー、アンケート回答、継続的な情報受領への同意、再購入・再訪意向等が候補になります。

全段階をフォロワー数、表示回数、ページ閲覧数だけで評価すると、どの旅行段階で役立ったかが分かりません。反対に、全てを予約件数だけで評価すると、旅行中の不安解消や旅行後の関係維持を見落とす可能性があります。


公式サイトは、三段階をまとめやすい

公式サイトは、正確な基本情報を蓄積し、検索から参照でき、詳細ページや予約先へ接続できるため、旅マエ・旅ナカ・旅アトを一つの媒体内で扱いやすい性質があります。

ただし、同じ階層・同じ見せ方にする必要はありません。

サイト内の機能

旅マエでの使い方

旅ナカでの使い方

旅アトでの使い方

特集・モデル提案

地域理解、行程検討

近隣候補の発見

訪問先の再確認、次回候補

施設・イベント情報

比較、予約条件確認

営業時間、位置、当日情報

名称確認、関連商品の確認

地図・交通情報

移動計画

現在地からの移動判断

次回訪問の計画

予約・販売先

事前予約

当日予約・購入

再購入、次回予約

お知らせ

開催予告、季節情報

運休、休業、混雑、変更

終了報告、次回案内

旅ナカで急いで確認する利用者に、長い特集記事を最初から読ませる設計は適切ではありません。反対に、旅マエの利用者へ、施設名と営業時間だけを並べても、地域を選ぶ理由は十分に伝わりません。


同じ情報の管理元を保ちながら、旅行段階に応じて入口、表示順、要約、行動ボタンを変える方法があります。


同じSNSアカウントは使えるが、即時情報の限界を確認する

SNSも、一つの公式アカウントを旅マエ・旅ナカ・旅アトでご活用いただけるように運用できます。


旅マエには、地域を知り、興味を持ち、旅行計画へ保存する情報を届けられます。旅ナカには、開催中の催し、当日参加できる体験、現在の景観等を伝えられます。旅アトには、旅行者の投稿を紹介し、感想を募り、次の季節や商品を案内できます。


ただし、SNSには次のような限界があります。

  • 投稿が時系列どおりに全利用者へ表示されるとは限らない

  • 過去投稿の営業時間・料金が検索結果等に残ることがある

  • 緊急・重要情報が他の投稿に埋もれる可能性がある

  • 地図、予約条件、長文の注意事項を一つの投稿で扱いにくい

  • コメントやメッセージへの対応時間が、旅行者の必要な時間に間に合わない場合がある

したがって、SNSを旅ナカでも使う場合、最新情報の管理元を公式サイト等に置き、SNSは更新の通知や要点提示を担う方法が考えられます。SNSだけを唯一の情報源にしない方がよい情報もあります。


旅アトは、旅マエへ戻る段階でもある

旅マエ・旅ナカ・旅アトは、必ずしも一度で終わる直線ではありません。旅行後に見た投稿、購入した商品、地域との交流、次の季節の案内が、新たな旅行前の検討につながる場合があります。


観光庁「第2のふるさとづくりプロジェクト」事例集は、再来訪を生み出すため、旅マエ・旅ナカ・旅アトを切れ目のない循環として捉えています。旅マエでは相互理解を促す情報、旅ナカでは交流を生む受入れ、旅アトでは遠隔でも関係を維持する仕組みを例示しています。


ここから読み取れるのは、旅アトの役割を「写真を投稿してもらうこと」だけに限定しない方がよいということです。再訪を期待するのであれば、次の関心、購買、交流、季節情報等へ接続できるかを確認します。


ただし、全ての旅行者との継続的な関係を目指す必要はありません。再訪可能性、商品との相性、旅行者の希望、連絡許諾、地域側の運用能力に応じて対象を選ぶ必要があります。


媒体を分けた方がよい場合

旅行段階ごとに別媒体を作る必要はありませんが、次の条件では、機能や媒体を分ける合理性があります。


更新速度が大きく異なる

ブランド理解を目的とする記事と、運休・臨時休業等の即時情報では、更新速度と責任体制が異なります。同じサイト内でも、独立した速報欄や外部の運行情報を参照する設計が必要になる場合があります。


利用場所・端末が異なる

旅行前は自宅のPC、旅行中はスマートフォンや現地掲示、旅行後はメールやSNS等、利用環境が異なる場合があります。通信状況や画面サイズも考慮します。


取扱う情報の権限・同意が異なる

公開情報と、予約履歴、アンケート、メールアドレス等の個人に関係する情報は、同じようには扱えません。閲覧権限、利用目的、保存期間、配信停止等を別に管理する必要があります。


成果判断が混ざる

認知、現地案内、再訪促進を一つのキャンペーンとして扱い、費用と成果を分けられない場合は、ページ、企画、配信、計測を分ける必要があります。


媒体を増やす前に、機能を分ける

旅行段階ごとの不足が見つかっても、直ちに新しいアプリ、SNSアカウント、特設サイトを作る必要はありません。先に、既存媒体の中で次を変更できるか確認します。


  1. 旅行段階別の入口・メニューを設ける

  2. 基本情報と速報情報を分ける

  3. ページや投稿ごとに主要な行動を一つ定める

  4. 情報の管理元と更新責任者を明示する

  5. 段階別に取得する指標を分ける

既存媒体で機能を分けられず、利用者の不便、更新遅延、権限・個人情報、評価上の問題が残る場合に、新しい媒体やシステムを検討します。


これは、前稿「観光プロモーションの媒体は、『何を始めるか』ではなく『何を止めるか』」で整理した、媒体数ではなく役割と運用可能性から判断する考え方とも共通します。


実務で作成したい「旅行段階×媒体」整理表

媒体ごとに、旅マエ・旅ナカ・旅アトの欄を設け、少なくとも次を記載します。

確認項目

記載する内容

利用者の状況

どこで、いつ、何を判断しようとしているか

媒体の役割

認知、理解、比較、現地判断、共有、再接触等

提供情報

必要な内容、情報量、対応言語

主要な行動

保存、予約、地図、電話、投稿、登録、再購入等

情報の鮮度

年次、季節、月次、日次、随時、即時等

管理元

事実を保有し、変更を判断できる組織・担当者

表示・更新担当

誰が、どの期限で媒体へ反映するか

評価指標

役割に応じて確認する数値・定性情報

次の接点

利用後にどこへ移るか、誰が引き継ぐか

空欄があること自体は問題ではありません。全ての媒体が全段階を担う必要はないためです。問題は、同じ役割が不必要に重なっている、必要な役割がどこにもない、担当者がいない、更新期限が目的に合わない、といった状態です。


よくある混同

SNSは旅マエ、公式サイトは旅ナカと固定する

媒体の類型だけでは役割は決まりません。公式サイトは旅マエの比較・計画にも使われ、SNSは旅ナカ・旅アトにも使われます。実装されている機能と運用で判断します。


同じ情報を三段階へ繰り返し発信する

対象となる施設や催しが同じでも、旅行者の問いは変わります。段階に応じて、要点、鮮度、行動を変える必要があります。


一つの投稿で認知・予約・現地案内・再訪を全て狙う

複数の役割を持たせることはできますが、主要な行動が不明確になり、評価も難しくなります。投稿・ページ単位では主要目的を絞る方が適切です。


旅アトはハッシュタグ投稿の依頼だけでよい

共有は一つの選択肢です。再訪、再購入、交流、改善意見等、組織が必要とする関係に応じて設計します。旅行者が継続接触を望まない可能性も尊重します。


データをつなげれば旅行者を完全に把握できる

旅マエ・旅ナカ・旅アトのデータは、媒体・事業者・端末をまたぎ、同一人物として結び付けられない場合があります。取得目的、同意、データ品質、欠測を確認し、把握できる範囲を明示します。


過剰に反応しなくてよい点

  • 旅マエ・旅ナカ・旅アトごとに別アカウントを作る必要はありません

  • 全ての投稿・ページへ旅行段階のラベルを付ける必要はありません

  • 一つの媒体が複数段階で使われること自体は問題ではありません

  • 全ての旅行者を旅アトも追跡する必要はありません

  • 三段階の全データを一つのシステムへ統合しなければならないわけではありません

  • 旅行者が常に旅マエ→旅ナカ→旅アトの順に行動するとは限りません

まずは、旅行中に必要な情報がすぐ見つかるか、古い情報が残っていないか、旅行後に関係を継続する必要があるか、そのための同意と担当者がいるかを確認するだけでも改善できます。


株式会社Kerzeが支援できる範囲

株式会社Kerzeは、旅行者の段階ごとの判断と、公式サイト、SNS、広告、予約先、現地接点等の役割を整理し、情報、運用、評価、会議体、内製・外注の分担を設計する支援を行っています。


具体的には、「旅行段階×媒体」整理表、ページ・投稿の主要目的、最新情報の管理元、更新期限、問い合わせの引継ぎ、段階別の指標、委託仕様書、運用ルール等が支援範囲です。


観光施策全体の評価階層は「観光施策のKGI・KPIはどう設計すべきか」、実施量と成果の区別は「アウトプットとアウトカムを混同しない観光事業評価」、情報発信と予約・販売の役割は「観光コンテンツの情報発信と販売チャネルの違い」で整理しています。


株式会社Kerzeの射程外

個人情報保護、メール・メッセージ配信への同意、著作権、プラットフォーム規約、事故・災害情報の法的責任、システム間の大規模なデータ統合は、自治体・組織の専門部署や各分野の専門家へ確認すべき領域です。


また、媒体の役割変更によって、来訪者数、旅行消費額、再訪率等の向上を保証するものではありません。旅行行動は、商品、価格、販売、交通、天候、受入状況等の影響も受けます。


まとめ

旅マエ・旅ナカ・旅アトで、同じ媒体を使っても構いません。しかし、同じ情報、同じ行動、同じ更新方法、同じ指標を当てはめることは適切ではありません。


共通化しやすいのは、公式情報の管理元、媒体の基盤、ブランド表現、基本的な施設・催事データです。分けるべきなのは、旅行者が解決したい問題、情報の表示順と鮮度、次に促す行動、更新責任、評価指標です。


新しい媒体を作る前に、既存の公式サイトやSNSの中で、旅行前の計画、旅行中の判断、旅行後の再接触を機能として分けられないか確認します。それでも更新速度、利用環境、権限、個人情報、評価上の問題が残る場合に、媒体やシステムを分ける判断ができます。

媒体を三つに分けることではなく、旅行者の異なる問いに、必要な情報と行動を対応させることが目的です。


原資料・関連資料

※本記事の情報は2026年6月19日時点で確認したものです。個人情報、配信同意、著作権、事故・災害情報、契約、システム連携等は、最新の法令・規程・サービス条件と専門部署の判断をご確認ください。

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