自治体SNS、その「公共性」をどう守るか
更新日:9月20日
自治体SNSの公共性は、すべての地域、事業者、住民を同じ回数取り上げれば守られる、というものではありません。
限られた投稿枠の中で誰かを選ぶ以上、掲載結果には必ず差が生じます。問われるのは、その差を生んだ判断が政策目的と利用者の必要に基づき、一貫した基準で行われ、後から説明・訂正できるかです。
公共性を考えるなら、少なくとも次の五点を確認しておく必要があります。
SNSを使う行政目的が明確である
掲載対象や対応方法を選ぶ基準が先に決まっている
正確性、権利、個人情報、政治的中立性を確認している
SNSを使えない人にも、重要情報へ到達できる経路がある
判断記録、訂正、苦情・異議への対応方法がある
ここでは、特定店舗の紹介、対象別発信、コメント対応といった個別判断を、同じ原則から考えます。
公共性が問題になるのは、どんな判断か
自治体の観光・シティプロモーションSNSでは、次の判断が繰り返し発生します。
特定の飲食店、宿泊施設、商品を公式アカウントで紹介してよいか
反応のよい地域や写真映えする場所へ投稿が偏ってよいか
観光客、住民、移住検討者など、対象を絞った発信は公平か
批判的なコメントへ返信するか、削除するか、別窓口へ案内するか
市長・町長や特定の政策をどこまで前面に出してよいか
緊急情報、募集、制度変更をSNSだけで告知してよいか
これらを「公共性が心配だから載せない」「公平のため全部載せる」と処理すると、必要な情報まで弱くなったり、現実には守れない掲載義務を抱えたりします。
担当者が決めるべきなのは、投稿を無難にすることではありません。どの差を許容し、その差をどの基準で説明するかです。
公平性は、「全員同じ」にすれば守られるわけではない
自治体SNSで、全事業者、全地区、全世代を毎回同じように扱うことは現実的ではありません。観光部門が、訪日旅行者へ向けて受入環境の整った施設を紹介することもあります。シティプロモーション部門が、子育て世代へ制度情報を集中的に届けることもあります。
対象を絞ること自体が、直ちに不公平なのではありません。
問題になるのは、次のような場合です。
掲載理由が担当者の好みや人間関係に依存する
反応がよいという理由だけで、同じ対象を繰り返し優遇する
選定基準が投稿後に都合よく作られる
同じ条件の対象へ異なる判断をしても理由が残っていない
自治体の政策目的より、特定者の販売促進が前面に出る
重要な行政情報をSNS利用者だけが得られる
誤りや偏りを指摘されても、訂正・再検討する経路がない
手続の公平さに関する研究では、判断結果だけでなく、一貫性、偏りの抑制、情報の正確さ、訂正可能性、関係者の考慮、倫理性が重視されてきました。これは自治体SNSを直接調べた尺度ではありませんが、掲載判断を点検する有用な視点です。
自治体SNSの公共性は、全員を同じ結果にすることではなく、異なる扱いを生む判断手続を公的に説明できる状態として捉える方が実務に適します。
同じSNSでも、発信の性質を分ける
同じ「SNS投稿」でも、求められる公共性の水準と対応は同じではありません。まず発信を分類します。
発信の種類 | 例 | 優先して守ること | SNSの位置付け |
行政上重要な情報 | 災害、制度変更、申請期限、交通規制 | 正確性、迅速性、到達可能性 | 補助的な周知経路。公式サイト等にも等価な情報を置く |
観光・地域プロモーション | 店舗、景観、イベント、商品、モデルコース | 政策目的、選定基準、権利、説明可能性 | 編集・選択を伴う媒体。対象を絞ることは可能 |
対話・問い合わせ対応 | コメント、メッセージ、引用投稿 | 対応の一貫性、記録、エスカレーション | 全件返信ではなく、種別ごとの対応基準を設ける |
首長・政策の発信 | 会見、政策説明、行事出席 | 行政広報と政治的・個人的発信の区別 | 目的、発信主体、アカウントの位置付けを明確にする |
この分類をしないまま一つのルールで運用すると、災害情報を観光投稿と同じ承認速度で扱ったり、観光編集に行政手続情報と同じ網羅性を求めたりします。
OECDの公共コミュニケーション報告書は、公共コミュニケーションを、共通善のために政府が情報提供し、市民の声を聞き、応答する機能と整理し、政党、選挙、個々の政治家に結び付く政治的コミュニケーションと区別しています。実務上、境界は完全には明確でないため、自治体側で発信主体と目的を記録しておく必要があります。
特定の事業者や場所を掲載してよいのは、どんなときか
特定事業者の紹介が、直ちに公共性へ反するわけではありません。観光プロモーションでは、宿泊、飲食、体験、買物など、民間事業者の情報を除いて地域の利用価値を伝えることは困難です。
掲載前に、次の順序で確認します。
1.政策目的との関係を一文で説明できるか
「人気があるから」「写真がきれいだから」だけではなく、何の政策目的に寄与するかを確認します。
例えば、閑散期の来訪促進、滞在時間の延長、公共交通での周遊、特定地域への混雑集中の緩和、地域産品への理解、住民の地域参加などです。
目的との関係が説明できない場合、公式アカウントで掲載する理由は弱くなります。
2.掲載可能な対象の条件を先に決めているか
個別名称を見てから判断するのではなく、掲載条件を先に定めます。
例としては、営業実態が確認できる、対象地域内にある、必要な許認可や安全情報を確認できる、旅行者を受け入れられる、写真・価格・営業時間等の情報提供に協力できる、今回の特集テーマに該当する、といった条件です。
全ての投稿を公募にする必要はありません。ただし、推薦、自薦、取材、庁内部門からの提供など、候補が入る経路と、採否を分ける基準は残します。
3.同じ条件の別対象にも適用できるか
「この対象だから掲載する」ではなく、「同じ条件の対象であれば同じ検討をする」と言えるかを確認します。
一度の投稿で全対象を均等に扱う必要はありません。月次・四半期・年間で、地域、業種、対象者、テーマの偏りを確認し、意図した重点化なのか、候補収集や担当者の関係性による偏りなのかを区別します。
4.自治体の紹介と広告を区別できるか
価格、予約先、購入方法を載せること自体が問題なのではありません。しかし、表現の主目的が地域・政策上の価値を伝えることから外れ、特定商品の販売だけに傾く場合は再検討します。
無償提供、招待、協賛、広告費、関係者との利害関係がある場合は、担当者だけで判断せず、庁内ルールに従って開示・承認の要否を確認します。
5.事実、権利、許諾を確認できるか
営業時間、料金、開催日、交通、安全上の注意は、公開直前に確認します。写真、動画、楽曲、人物、施設内撮影、UGCの利用許諾も記録します。
日本政府観光局(JNTO)のInstagram運用ガイドラインは、施設管理者がいる場所や私有財産を主な被写体とする場合の確認、許諾内容の記録を示し、UGCでも確認が必要としています。
以上を満たせない場合は、掲載を見送るか、個別事業者ではなくテーマ・地域全体を扱う形式へ変更します。
対象を絞ることと、情報アクセスを閉じることは別である
「公平にするため、住民にも観光客にも同じ投稿を出す」という考え方は、必ずしも適切ではありません。必要な情報、前提知識、使用言語、行動段階が異なるためです。
OECDの報告書も、利用者の理解を基に対象別に情報を調整することと、十分に届いていない層を含めることの双方を重視しています。つまり、対象を分けることと、包摂性を確保することは両立します。
ただし、次の情報はSNSだけに置かない方がよいものです。
生命・安全に関係する情報
申請、募集、支援制度等で期限や資格に影響する情報
利用者によって得られる権利・利益に差が生じる情報
訂正履歴や最新版の確認が必要な情報
2026年6月にデジタル庁が公開した「ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック」は、SNSの仕様上、全利用者への公平な情報提供が難しい場合があるため、アクセシビリティを確保したウェブサイトでも等価な情報を提供する考え方を示しています。
実務では、公式サイトを正本または最新版の確認先とし、SNSは対象者へ気づきをつくる入口として使います。画像には代替テキストを用意し、動画には字幕・書き起こし等を設け、SNS側で十分に対応できない場合はアクセシブルなページへ案内します。
コメントは、全件返信より同じ基準で扱えるかを見る
双方向性はSNSの価値ですが、全てのコメントへ返信することが公共性を守る方法とは限りません。担当者の勤務時間、所管、個人情報、緊急性を考えれば、対応を分ける必要があります。
最低限、次の区分を決めます。
事実確認で回答できる質問
個別事情を含むため公式窓口へ案内する質問
所管部門へ確認・移管する質問
誤情報や行政上の訂正が必要な指摘
脅迫、差別、個人情報、権利侵害等を含む投稿
批判的ではあるが、利用規約には反しない意見
批判的であることだけを理由に削除すると、運用方針の一貫性を失います。削除・非表示・ブロックを行う条件は公開し、実行時には対象、理由、日時、判断者を記録します。
英国Government Digital ServiceのSocial media playbookは、よくある質問への事前承認済み回答と、緊急性・評判リスクに応じたエスカレーション手順を分けています。全件を担当者の即興で処理せず、通常対応と例外対応を分ける考え方です。
公共性を、四つのテストで確認する
次のテストは、学術的に検証された標準尺度ではありません。本記事で参照した手続の公平性、公共コミュニケーション、行政実務の知見を、自治体SNSへ変換した診断方法です。
同一基準テスト
名称を隠した二つの候補に、同じ基準を適用して同様の判断ができるかを確認します。結果が変わる場合は、その差に政策上の理由があるかを記録します。
理由記録テスト
半年後に異動してきた職員が、投稿企画書と記録だけで「なぜこの対象を選んだか」を説明できるかを確認します。
非掲載側テスト
掲載されなかった事業者や地域から質問されたとき、個人評価や後付け理由ではなく、共通の条件と今回の優先順位で説明できるかを確認します。
代替経路テスト
SNSを使わない人、画像を見られない人、音声を聞けない人、日本語を十分に読めない対象者が、必要な情報へ別の経路で到達できるかを確認します。
一つでも通らない場合、表現修正だけで公開せず、選定基準、情報提供経路、許諾、承認のいずれに問題があるかを戻って確認します。
公共性を評価する指標
「苦情がなかった」「炎上しなかった」だけでは、公共性を評価できません。反応がないのは、問題がないからではなく、発信に到達していないからかもしれません。
四半期または事業期間ごとに、次を確認します。
掲載理由を記録した投稿の割合
基準外の例外掲載件数と承認理由
地域、業種、対象者、テーマ別の掲載分布
同一対象・関係者の反復掲載と、その政策上の理由
事実誤認、訂正、削除の件数と訂正までの時間
写真・動画・UGC等の許諾記録率
代替テキスト、字幕、書き起こし等の対応率
重要情報について公式サイトに等価な情報がある割合
コメントの処理区分、回答時間、エスカレーション件数
非掲載理由や運用方針に関する問い合わせ内容
掲載分布に差があること自体を失敗とみなしてはいけません。重点地域や政策対象を意図的に扱った結果か、候補収集・担当者関係・アルゴリズム反応へ無自覚に引かれた結果かを判断します。
また、透明性が信頼を自動的に生むとも限りません。政府の透明性と信頼に関する49研究のメタ分析では、全体として正の関係が確認された一方、情報の種類や提供方法などによって効果が異なりました。基準を公開するだけでなく、実際の判断と訂正に使われているかを検証する必要があります。
一度止めて専門確認へ回すべき場合
次の場合は、投稿スケジュールを優先せず、確認が終わるまで公開・返信を止めます。
掲載目的と選定理由を説明できない
同条件の対象へ異なる判断をしているが、理由がない
担当者、首長、委託先と掲載対象の利害関係を確認できない
料金、営業、申請期限、安全情報など重要な事実が未確認である
写真、人物、施設、UGC等の利用許諾が確認できない
SNS以外に重要情報へ到達する経路がない
批判的意見と規約違反の区別ができないまま削除しようとしている
行政広報と選挙・政党・個人的な政治発信の境界が曖昧である
情報不足で掲載可否を決められない場合は、投稿を無理に埋めず、追加確認または企画変更を選びます。
公共性を、担当者個人の感覚に残さない
公共性を担当者の良識だけに委ねないため、少なくとも次を文書化します。
アカウントの行政目的、対象者、公式サイト等との役割分担
発信種類ごとの正確性・アクセシビリティ・承認水準
掲載候補の収集経路、選定条件、優先順位、例外承認
特定事業者、首長、協賛者、関係者を扱う場合の確認事項
事実確認、著作権、肖像、施設、UGC等の許諾記録
コメントの返信、移管、訂正、削除、ブロックの基準
緊急時の責任者、エスカレーション、訂正手順
投稿企画、承認、変更、削除、苦情対応の記録方法
四半期・年度で偏りと例外を見直す担当者と時期
名古屋市のソーシャルメディア活用ガイドラインは、市が事業者へ委託する場合も適用対象としています。委託したからといって、公共性の判断まで受託者固有の基準へ移るわけではありません。
また、岡山市のSNS利用に関する行政監査では、発信の公正性・公益性・公平性の担保とトラブル防止を目的に、区役所が情報発信基準を別途設けていた事例が確認されています。運用ポリシーだけでなく、内部の掲載判断基準を持つことが実務上の選択肢になります。
同じ自治体SNSでも、目的によって基準は変わる
観光部門では、民間事業者を取り上げること自体が施策成立の条件になりやすいため、「特定事業者を掲載しない」ことより、来訪者の必要、受入条件、地域全体への効果、選定・許諾基準を整えることが重要です。
シティプロモーション部門では、住民向け情報と域外向け魅力発信、複数部門の政策目的、首長発信が混在しやすくなります。誰のどの利益を扱う発信か、行政広報か政治的発信か、長期的に取り上げられていない地区・集団がないかを確認します。
両部門とも、一投稿ごとの均等より、一定期間の判断手続と情報アクセスを評価します。ただし、住民の権利、安全、申請機会に関わる情報は、観光プロモーションより厳しい到達性・正確性を求めます。
一般原則だけでは決められない領域もある
「公共性」には、全自治体・全投稿へ適用できる単一の法的・学術的尺度はありません。掲載対象、行政目的、媒体、緊急性、自治体の条例・規程によって判断は変わります。
手続の公平性に関する研究は、主に職場、司法、行政サービス等で蓄積されており、自治体観光SNSの掲載判断を直接検証したものではありません。本記事の四テストと指標は、それらの知見と公的資料から導いた実務的推論です。
また、SNSの表示仕様、アクセシビリティ機能、コメント管理機能は変わります。媒体固有の操作方法は、各プラットフォームの最新公式情報と庁内規程を確認してください。
公共性は、差をなくすことではなく、差を説明できること
自治体SNSの公共性は、発信を弱くするための制約ではありません。限られた投稿枠で必要な対象を選び、必要な人へ届ける判断を、公的に成立させるための条件です。
確認順序は次のとおりです。
発信を行政重要情報、プロモーション、対話、首長・政策発信に分ける
SNSを使う政策目的と、利益・不利益を受ける対象を確認する
個別名称を見る前に掲載条件と優先順位を定める
同じ条件の別対象にも同じ基準を適用できるか確認する
事実、権利、許諾、利害関係を確認する
SNS以外にも重要情報へ到達できる経路を用意する
判断、例外、訂正、コメント対応を記録する
一定期間ごとに偏りと例外を見直す
全員を同じ回数取り上げることではなく、なぜその対象を選び、誰へ何を届け、問題があればどう直すのかを説明できること。その状態を作る方が、自治体SNSの公共性に近いでしょう。
個別案件で迷ったとき、何を見るか
状態 | 次の判断 |
政策目的と掲載基準が明文化され、一貫して説明できる | 現行運用を継続する |
個別案件ごとに担当者判断が変わる | 掲載基準と例外処理を整備する |
特定主体の紹介理由を政策目的から説明できない | 掲載を再検討する |
公平性を理由に全対象を同回数掲載しようとしている | 形式的平等ではなく目的適合で基準を見直す |
法令・権利・政治的中立性等に個別判断が必要 | 一般運用基準と切り離し、専門確認へ回す |
次の投稿ではなく、掲載基準を一つ決める
次に特定の事業者や地域を紹介するとき、その対象を選ぶ基準を個別名称を見る前に一つだけ書いてみてください。
関連する支援
自治体SNSの運用基準、発注、計測、内製体制まで含めて整理する場合は、自治体向けデジタルプロモーション・Instagram支援をご確認ください。
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主要参考文献・参考資料
OECD (2021), OECD Report on Public Communication
デジタル庁(2026)「ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック」
日本政府観光局(2022)「効果的な情報発信を行うためのInstagram運用ガイドライン」
岡山市監査委員(2018)「ソーシャルメディアを利用した情報発信について」
名古屋市「ソーシャルメディア活用ガイドライン」
Government Digital Service, Social media playbook
Hansson, S. & DePaula, N. (2025), Government Communication on Social Media: Research Foci, Domains, and Future Directions
Bobocel, D. R. & Gosse, L. (2015), Procedural Justice: A Historical Review and Critical Analysis
Wang, Q. & Guan, Z. (2023), Can Sunlight Disperse Mistrust? A Meta-Analysis of the Effect of Transparency on Citizens’ Trust in Government
※本記事は一般的な実務判断の整理であり、個別の掲載可否について法的判断を示すものではありません。所属自治体の条例、規程、選挙・政治活動、個人情報、著作権、公文書管理等の所管部門へ確認してください。
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