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インフルエンサー施策やキャンペーン施策を自治体プロモーションに使うべき条件

  • 7月18日
  • 読了時間: 15分

更新日:7月23日

本記事の要点

インフルエンサー起用やSNSキャンペーンは、再生数、応募数、フォロワー数等の分かりやすい数字を短期間でつくりやすく、庁内外にも説明しやすい施策です。しかし、その数字が増えたことと、重点対象者の理解、来訪、周遊、移住検討、住民参加等の政策成果が増えたことは同じではありません。


両施策を採用すべきなのは、通常の情報発信では解消しにくい具体的なボトルネックがあり、施策の仕組みがそのボトルネックへ直接働き、終了後の行動まで確認できる場合です。外部からの見栄えや短期的な反応だけを理由に採用する施策ではありません。


本記事では、次の四つを分けて判断します。

  • インフルエンサーを起用する

  • キャンペーンを実施する

  • 両者を組み合わせる

  • どちらも実施しない


この記事を確認すべき人

特に確認する価値が高いのは、次のような自治体、観光協会、DMOの担当者です。

  • フォロワー獲得やプレゼントキャンペーンを提案されている

  • インフルエンサーの起用条件が、フォロワー数だけになっている

  • 年度内に目に見える成果を求められ、短期施策を検討している

  • 過去に応募数や再生数は増えたが、来訪や相談との関係が分からなかった


先に結論:採用理由は「外から目立つ」ではなく「固有のボトルネックを解消できる」こと

インフルエンサーやキャンペーンには、通常の投稿や広告では得にくい機能があります。


インフルエンサーは、自治体がまだ接点を持っていない特定の読者へ、その人なりの経験や解釈を伴って情報を届けられます。キャンペーンは、応募、投稿、現地周遊、意見提出等の行動を、期限と参加条件によって短期間に促せます。


一方で、インフルエンサー施策は、起用者の人気を地域への関心と誤認しやすく、投稿表現、広告表示、炎上、権利、特定事業者の扱い等のリスクを伴います。キャンペーン施策は、景品や当選可能性に反応した人を集め、終了後に離脱させる場合があります。応募数が増えても、地域を理解した人が増えたとは限りません。


したがって、両施策には次の必要条件があります。


  1. 解消すべきボトルネックが具体的である

  2. 重点対象者と促したい行動が定義されている

  3. 施策の仕組みが、その行動を直接促す設計になっている

  4. 行動後の情報、商品、相談、来訪受入等が機能している

  5. 公平性、表示、景品、個人情報、権利、プラットフォーム規約を運用できる

  6. 施策中の反応だけでなく、終了後の変化を測定できる

  7. 継続、変更、停止の条件が開始前に定められている


これらは必要条件であり、揃えば必ず成功するという十分条件ではありません。最初は対象、期間、予算を限定した検証として実施する方が安全です。


なぜ、これらの施策は採用されやすいのか

両施策は、行政事業として説明しやすい特徴を持っています。

  • 著名人、景品、応募企画は事業の見栄えをつくりやすい

  • 再生数、応募数、投稿数、フォロワー増加数を短期間で報告できる

  • 仕様書上の業務内容と成果物を明示しやすい

  • 他自治体の実施例が多く、前例として説明しやすい

  • 年度末までに完了させやすい


しかし、測りやすさと政策上の価値は別です。再生数は動画が再生された回数、応募数は応募条件を満たした件数、フォロワー増加数はアカウントをフォローした数を示します。誰の理解がどう変わり、その後に何をしたかまでは示しません。


販促研究でも、短期的な販売促進が行動を動かし得る一方、施策終了後の選好への効果は一様ではないとされています。51研究を統合したDelVecchioほかのメタ分析では、平均すると販促終了後のブランド選好に明確な正負の効果は確認されず、条件によって結果が異なりました。自治体キャンペーンを直接検証した研究ではありませんが、「短期反応が長期的な地域選好へ自動的に残る」とはみなせない根拠になります。


最初に、何が止まっているのかを特定する

施策名を決める前に、対象者が政策成果へ至るまでのどこで止まっているかを確認します。


地域を知られていない

重点市場で地域の存在自体が知られていない場合です。新しい対象者への到達が課題であり、対象者との適合を確認できるインフルエンサーや広告が候補になります。


知られているが、選ぶ理由が理解されていない

名称や有名スポットは知られていても、誰にどのような価値がある地域なのか理解されていない場合です。実体験を自分の言葉で説明できる発信者は候補になりますが、著名であるだけでは足りません。


関心はあるが、参加のきっかけがない

地域資源への関心はあるものの、投稿、周遊、イベント参加、アンケート回答等の最初の行動が起きていない場合です。この行動自体に政策上の価値があり、参加後の接点を設計できるなら、キャンペーンが候補になります。


行動したいが、情報・商品・受入体制がない

料金、交通、予約、相談先、開催日、在庫、参加枠等が不足している場合です。この段階では、インフルエンサーやキャンペーンを増やしても、離脱や不満を増やすおそれがあります。先にWeb、商品、予約、相談、交通、現地受入を改善します。


すでに需要が集中している

特定の季節や地点に需要が集中している場合、追加の話題化は混雑、自然環境への負荷、住民生活への影響を強めます。需要を増やす施策ではなく、時期・場所の分散、予約制、案内改善を優先します。


インフルエンサーを使うべき条件

インフルエンサーを起用する合理性があるのは、自治体が自力では接点を持ちにくい重点対象者へ、第三者の経験と解釈を通じて情報を届ける必要がある場合です。


研究の系統的レビューでは、発信者の信頼性、専門性、対象との類似性、発信内容との適合等が、受け手の反応に関係することが整理されています。ただし、効果は発信者、商品・地域、対象者、媒体、開示方法等によって変わります。Vrontisほかによる系統的レビューも、インフルエンサー施策を、単純なフォロワー規模ではなく、発信者特性、内容、受け手との関係等の組合せとして扱っています。


起用前には、少なくとも次を確認します。

  • フォロワーの年代、居住地、関心が重点対象者と重なるか

  • 過去の旅行・地域・行政案件で、どのような内容と反応が生じたか

  • フォロワー数ではなく、通常投稿の到達、保存、視聴維持、コメントの内容はどうか

  • 地域の価値を本人の発信文脈で説明できるか

  • 自治体が事実確認すべき範囲と、発信者へ任せる表現の範囲を分けられるか

  • 投稿後に、公式情報、商品、予約、相談等へ移動できるか

  • 同じ対象者へ複数人が重複して到達していないか

  • 不適切投稿、事故、災害、炎上時の対応と投稿停止条件があるか

フォロワー数は到達可能性の一部を示しますが、影響力そのものではありません。De Veirmanほかの実験研究でも、多数のフォロワーは人気の知覚にはつながった一方、意見を導く人物という評価へ常に結び付いたわけではありません。個別研究であるため一般化には限界がありますが、人数だけで起用を決めない理由にはなります。


実務上も、令和8年度岡山県・香川県連携情報発信業務の仕様書では、候補者についてフォロワー数だけでなく、属性、過去投稿のエンゲージメント、投稿内容・構成・表現力、起用効果を示すことを求めています。少なくとも、この程度の情報が自治体側へ提示されない起用案は、判断材料が不足しています。


キャンペーンを使うべき条件

キャンペーンは、景品を配ることではなく、期限、参加条件、参加利益を用いて特定の行動を増やす仕組みです。採用すべきなのは、増やしたい行動自体に政策上の価値がある場合です。

例えば、次のように設計を分けます。


認知を広げたい場合

単純なフォローやリポストは参加しやすい一方、景品への関心と地域への関心を区別しにくくなります。認知目的なら、重点対象者への到達、地域名や提供価値の理解、終了後の想起等を別途測定できることが条件です。


地域理解を深めたい場合

地域に関するクイズ、記事閲覧、体験情報の選択等を応募条件にする方法があります。ただし、応募作業を複雑にすればよいわけではありません。理解させたい内容と応募行動が一致し、アクセシビリティ上の過度な排除がないことを確認します。


来訪・周遊を促したい場合

デジタルスタンプラリーや現地投稿は、行動との距離が近い施策です。一方、位置情報、個人情報、安全管理、参加可能な人の偏り、特定店舗・地域への利益集中、混雑等を管理する必要があります。もともと来訪予定だった人の参加を、新規誘客とみなさない評価も必要です。


投稿素材や住民参加を増やしたい場合

ハッシュタグ投稿や作品募集では、投稿数だけでなく、内容の質、多様な地域・主体の参加、二次利用許諾、被写体・施設等の権利、選考基準、落選者への説明、モデレーション工数を確認します。公開投稿であることだけでは、自治体が自由に複製、編集、再掲載できる根拠にはなりません。


キャンペーンの最重要条件は、景品が「集めたい人」ではなく「景品を欲しい人」だけを選別する設計になっていないことです。地域産品を景品にすれば必ず地域関心者だけが集まる、という保証もありません。終了後のフォロー継続、通常投稿への反応、公式サイト閲覧、再訪、相談、参加等を観察して初めて、短期反応の質を判断できます。


両者を組み合わせてよい場合

インフルエンサーとキャンペーンの併用が妥当なのは、発信者が重点対象者へ企画の意味を説明し、その後の参加行動自体が政策成果へ近づく場合です。


例えば、分散周遊を目的とする企画で、対象者と適合する発信者が閑散期の複数地域を体験し、参加者も同じ周遊情報を確認して行動できる場合です。このとき、インフルエンサーは到達と解釈、キャンペーンは参加のきっかけを担当します。


反対に、著名人の投稿をプレゼントで拡散し、公式アカウントのフォロワー数を増やすだけなら、二つの短期反応を重ねているにすぎません。費用、運用、法務、炎上リスクは増えますが、政策成果へ近づく保証はありません。


併用する場合は、それぞれを別々に評価します。

  • インフルエンサーが重点対象者へ到達し、地域理解を生んだか

  • キャンペーン参加者が望む行動を取り、終了後も接点が残ったか

  • 両施策の重複を除いた追加到達・追加行動はどれだけか

  • 同じ成果を広告、Web改善、商品改善等で得る場合より妥当か


実施しない方がよい条件

次の状態では、原則として見送ります。

  • 目的が「話題化」「若年層への訴求」「フォロワー増加」だけである

  • 重点対象者と促したい行動が決まっていない

  • 起用者の選定理由が知名度やフォロワー数に限られる

  • 景品と地域の政策目的との関係を説明できない

  • 公式サイト、商品、予約、相談、現地受入が整っていない

  • 施策終了後に確認する指標と期間が決まっていない

  • 応募規約、広告表示、権利、個人情報、当選処理を担当できない

  • 特定の事業者、地域、人物を選ぶ基準を説明できない

  • 混雑、環境負荷、住民不満が既に問題になっている

  • 受託者しか元データを確認できず、次年度へ学習を引き継げない

  • 比較対象を置かず、応募数や再生数だけで成功とする予定である

「他自治体も実施している」「提案審査で目立つ」「年度内に数字を作れる」は、採用理由にはなりません。


表示、景品、個人情報、権利を企画後に処理しない

両施策では、法令・規約対応を企画決定後の事務処理にしないことが重要です。参加条件や発信方法そのものを変更する可能性があるためです。


インフルエンサーへ依頼・指示した投稿は、関係性や内容によって広告主の表示に当たり得ます。消費者庁のステルスマーケティングに関する案内では、事業者が第三者へ依頼・指示する表示も広告に含まれると説明されています。自治体案件で同告示の適用対象となるかは、紹介する商品・サービス、自治体と事業者との関係等によって個別確認が必要です。適用の有無にかかわらず、行政が費用、招待、物品等を提供した関係を閲覧者へ隠さないことは、公共コミュニケーション上の最低条件です。消費者庁Q&Aも確認し、一般の閲覧者が関係性を理解できる表示にします。


景品規制は、主催主体、応募条件、取引との関係によって扱いが異なります。消費者庁「景品規制の概要」で制度を確認し、自治体事業への適用と個別企画の区分は法務・契約担当等の確認を受けます。一般懸賞の上限額だけを、全ての自治体SNSキャンペーンへ機械的に当てはめてはいけません。


応募フォーム等で氏名、住所、連絡先等を取得する場合は、利用目的、取扱主体、委託先、保管期間、削除、問い合わせ先を定めます。個人情報保護委員会のガイドラインは、懸賞応募等で本人から直接個人情報を取得する場合、利用目的をあらかじめ明示する必要があると説明しています。


Instagram等のプラットフォームにも独自のプロモーション規定があります。Instagramの公式プロモーションガイドラインは、公式ルール、参加資格・条件、Instagramとの非関連性等を求めています。規約は変更され得るため、公開直前に利用媒体の最新版を確認します。


仕様書に最低限残す事項

委託する場合でも、自治体側に判断基準と元データを残します。


インフルエンサー起用

  • 政策目的、重点対象者、起用者が担う役割

  • 候補者の属性、フォロワー属性、通常投稿実績、過去案件

  • 選定・除外基準と利益相反の確認

  • 招請、謝礼、提供物、広告表示の方法

  • 事実確認と表現裁量の範囲

  • 投稿内容、期間、修正、削除、事故・炎上対応

  • 著作権、肖像、二次利用、元データ、利用期間・媒体

  • 投稿単位の実績と公式導線後のデータ


キャンペーン

  • 増やす行動と、その行動が政策成果へつながる論理

  • 応募資格、方法、期間、景品、抽選・審査、通知方法

  • 不正応募、重複応募、なりすまし、苦情への対応

  • 個人情報の取得項目、利用目的、保管、削除、委託先

  • 投稿物の権利、二次利用、モデレーション、削除基準

  • 参加者属性、対象適合、終了後行動を確認する方法

  • 事務局、景品、配送、広告、制作、権利処理を含む総費用

  • 中止、延長、変更、停止条件

成果報告書だけでなく、集計定義、匿名化した元データ、投稿・広告の実績、規約、権利許諾、対応履歴を納品対象にします。


評価は「施策中」と「終了後」を分ける

開始前、実施中、終了後の三時点で評価します。


開始前

  • 重点対象者における認知、理解、行動の基準値

  • 通常時のフォロー増減、サイト流入、相談、予約、投稿等

  • 比較する地域、期間、対象、投稿または類似施策

  • 許容できる総費用と公共的なガードレール


実施中

インフルエンサーでは、重点対象者に該当する到達、視聴維持、保存、公式情報への移動、質問・コメントの内容を確認します。キャンペーンでは、有効応募、対象者比率、重複・不正、参加内容の質、事務局工数、苦情を確認します。


終了後

終了直後だけでなく、目的に応じて1か月後、3か月後等を確認します。

  • キャンペーン終了後のフォロー解除と通常投稿への反応

  • 公式サイトの再訪、検索、商品閲覧、予約、相談、参加

  • インフルエンサー投稿の継続閲覧と公式情報への到達

  • 地域名だけでなく、訴求した価値が理解・想起されているか

  • 投稿者・参加者との接点が残り、次の行動へ進んだか

  • 混雑、住民不満、権利・個人情報事故等が生じていないか

費用は景品や謝礼だけでなく、制作、広告、交通、宿泊、キャスティング、事務局、抽選、配送、問い合わせ、モデレーション、権利処理、職員工数まで含めます。


適格行動1件当たり総費用 = 施策に必要な総費用 ÷ 重点対象者による有効な行動数


ただし、この値だけで因果効果が確定するわけではありません。通常時や比較対象との差、他施策で同じ成果を得る費用と合わせて判断します。


見直し・停止条件

次の場合は、拡大せず、設計変更または停止を検討します。

  • 到達者・応募者が重点対象者と大きく異なる

  • 反応が景品や起用者本人に集中し、地域理解が確認できない

  • 公式サイト、予約、相談等への移動が想定を下回る

  • 終了後にフォロー解除や反応低下が大きく、接点が残らない

  • 不正応募、権利侵害、表示不備、個人情報上の問題が生じる

  • 特定事業者への偏りや選定基準について説明できない

  • 混雑、住民不満、自然環境・現場運用への負荷が上限を超える

  • 事務局・モデレーション費を含む総費用が、得られた政策価値に見合わない

  • 次に検証する仮説がなく、同じ企画の反復だけになっている

年度をまたいで継続する場合も、「前年に好評だった」ではなく、どの対象者のどの行動が残ったため継続するのかを説明します。


自治体では、民間企業より厳しく見るべき点がある

民間企業の販促では、短期売上や顧客獲得が施策価値へ比較的近い場合があります。自治体では、来訪者数の増加だけでなく、住民利益、地域内の利益配分、混雑、環境、情報への公平なアクセス、政策目的の複数性を考慮する必要があります。


また、自治体が特定の発信者、店舗、産品、地区を選ぶ行為には、選定理由の説明が必要です。応募しやすい人だけの声を「住民の声」「関係人口」として一般化することも避けなければなりません。


観光部門では、予約、来訪、周遊、消費等へ比較的接続しやすい一方、供給制約と混雑を確認します。シティプロモーション部門では、認知、理解、愛着、参加、移住検討等の時間軸が異なるため、短期応募数を長期成果とみなさない評価が必要です。


まとめ

インフルエンサーやキャンペーンは、反応を生みやすいから採用する施策ではありません。通常の発信では解消しにくい具体的なボトルネックがあり、その仕組みが重点対象者の望ましい行動へ直接働く場合に、限定的な検証として採用する施策です。


判断では、次の順序を守ります。

  1. 政策成果と重点対象者を定める

  2. どの段階で行動が止まっているかを確認する

  3. インフルエンサーまたはキャンペーン固有の機能が必要かを判断する

  4. 導線、受入体制、公平性、表示、景品、個人情報、権利を確認する

  5. 対象、期間、予算を限定して実施する

  6. 施策中の数字と終了後の行動を分けて測る

  7. 継続、変更、停止を判断する


実施を見送ることも、十分に合理的な結論です。外から見える賑わいではなく、誰のどの行動を変え、その変化を政策成果へどう接続するのかで判断する必要があります。


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主要参考文献・参考資料

※本記事は一般的な実務判断の整理であり、個別企画に対する法律意見ではありません。景品、表示、個人情報、著作権、肖像等の扱いは、企画内容と関係法令に応じて担当部門・専門家へ確認してください。

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