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SNS運用の成果が出ないとき、担当者と委託先のどちらに原因があるか

  • 7月21日
  • 読了時間: 14分

更新日:7月23日

自治体や観光協会、DMOがSNS運用を外部へ委託していると、成果が伸びないときに「委託先の提案力が弱いのではないか」「担当者の情報提供や確認が遅いのではないか」という議論が起こります。


しかし、この段階でどちらか一方に原因を求めると、問題を取り違えるおそれがあります。投稿の品質や進行以前に、政策目的に対してSNSという手段が適切でない、SNSから先の受入環境が整っていない、発注した業務と期待する成果が対応していない、といった上流の問題があり得るためです。


本記事では、契約上の法的責任を判定するのではなく、成果不振の原因を実務上どの順番で切り分け、継続、改善、契約変更、再調達、内製化、停止のいずれを選ぶかを整理します。


先に結論:原因は「担当者か委託先か」の二択ではない

成果不振は、まず次の5層に分けて確認すべきです。

  1. 政策目的とSNSという手段が合っているか

  2. 発注した業務の範囲・成果物・権限が、期待する成果と合っているか

  3. 自治体側が、情報提供、庁内調整、承認、受入環境の整備を行えているか

  4. 委託先が、契約と合意に沿って専門業務を遂行しているか

  5. 両者の間で、課題、変更、判断を扱う運営の仕組みが機能しているか

この順序で確認すると、原因は「発注者側」「委託先側」「役割の境界」「SNS以外の部門・事業者」「現時点では判定不能」のいずれかに整理できます。


なお、ここでいう「原因」は改善のための診断です。債務不履行、損害賠償、契約解除等の法的判断とは別であり、必要な場合は契約担当部門や法務の確認が必要です。


最初に確認すべきは、委託先の投稿品質ではない

最初の問いは「投稿が良いか」ではなく、「目的達成のためにSNSが担うべき役割は何か」です。


たとえば、目的が若年層に地域を知ってもらうことであれば、SNSで認知や関心を形成することには一定の整合性があります。一方、宿泊予約を増やすことが目的なら、SNSだけでなく、予約可能な商品、価格、在庫、販売ページ、問い合わせ対応まで接続していなければなりません。移住相談を増やす場合も、相談対象者に必要な情報、相談窓口、対応体制がなければ、投稿改善だけでは解決しません。


日本政府観光局(JNTO)の2025年版Facebook活用ガイドラインも、SNS活用では目的を先に明確にし、目的に沿って発信し、効果を検証する順序を示しています。また、同じインバウンド誘客を担う組織でも役割は異なり、自前のアカウントを持たず、連携先に発信してもらう方が有効な場合もあるとしています。


したがって、次のいずれかに当てはまる場合、委託先を変更する前に施策自体を見直す必要があります。

  • 届けたい相手が、そのSNSを情報探索に使っている根拠がない

  • SNS上で起こしたい変化が、政策成果までどうつながるか説明できない

  • 公式サイト、予約、問い合わせ、現地受入等の次の接点が整っていない

  • 他部門、観光協会、DMO、地域事業者の発信と役割が重複している

  • SNSの数値だけで、来訪、消費、移住等の政策成果を説明しようとしている

この状態では、優秀な運用会社であっても成果を出せる範囲は限定されます。


「期待していたこと」と「発注したこと」を照合する

次に、期待成果と契約範囲を照合します。よくあるのは、「SNS運用一式」という名称の下で、発注者と受託者が異なる仕事を想定している状態です。


たとえば、仕様書に記載されているのが月4本の企画、制作、投稿、月次レポートだけであるにもかかわらず、発注者が次のことまで期待している場合があります。

  • 政策目的やターゲットの再設定

  • 公式サイトや予約導線の改善

  • 庁内部門や地域事業者との調整

  • 年間プロモーション全体の進行管理

  • 他の広告会社、制作会社との統合

  • 事業成果の因果的な評価

これらは、通常の制作・運用業務に自動的に含まれるとは限りません。反対に、仕様書で分析、改善提案、関係者調整まで求めているのに、受託者が投稿の制作と数値報告しか行っていないなら、履行水準の問題を検討できます。


デジタル庁「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン解説書」は政府情報システムを対象とする資料であり、SNS委託へ直接適用される規則ではありません。ただし、調達仕様書には事業者の提案に不可欠な情報を示し、実施計画では対象範囲、全関係者の関係性、役割・責務、成果物、品質基準等を明らかにするという考え方は、SNS委託の責任分界を整理する際にも参考になります。


確認するのは、業務名ではなく、少なくとも次の項目です。

  • 目的と対象者

  • 委託先が行う作業と、行わない作業

  • 自治体側が提供する情報、素材、権限、環境

  • 企画、制作、確認、承認、投稿、返信の担当

  • 分析、改善提案、実行判断の担当

  • 他部門・他事業者との調整担当

  • 成果物の品質基準と期限

  • 仕様変更の方法

  • 緊急時の連絡、判断、公開停止の権限

  • 契約終了時に引き継ぐデータ、アカウント、制作物、判断履歴

この照合をせずに「成果が出ない」と評価しても、契約外の期待を委託先へ求めているのか、契約内の業務が不足しているのかを区別できません。


代理店・コンサル・PMOは、同じ外部支援ではない

外部事業者の名称だけでは、実際の役割は分かりません。ここでは実務上の整理として、主な役割を次のように区別します。これは法令上の定義ではなく、一社が複数の役割を兼ねることもあります。

役割

主に担うこと

適する状況

発注時の注意

代理店・運用事業者

企画、制作、投稿、広告配信、レポート等の実行

目的、対象、運用範囲が概ね定まっている

投稿本数だけでなく、分析・改善提案・調整をどこまで含むかを明記する

コンサルタント

課題診断、戦略、指標、選択肢、評価、助言

何を実行すべきか、SNSを使うべきかから検討したい

助言後の意思決定者と実行者を別に定める。制作・投稿は含まれない場合がある

PMO・プロジェクト管理支援

全体計画、進捗、課題、リスク、会議、意思決定、複数主体の調整

複数部門・複数事業者が関わり、境界の管理がボトルネックになっている

PMOが政策決定や制作を代行するとは限らない。どの判断を支援し、誰が決裁するかを定める

「SNS運用会社に頼めば戦略も庁内調整も評価も行う」「コンサルタントなら日々の進行も代行する」「PMOなら成果責任を全て持つ」といった理解は危険です。名称ではなく、作業、成果物、権限、責任分界で選ぶ必要があります。


また、実行事業者が自らの成果を評価し、同時に発注者側の管理支援まで担うと、情報連携が容易になる一方、評価の独立性が弱くなる場合があります。デジタル庁の同解説書は、政府情報システム調達において、プロジェクト管理支援事業者と管理対象の設計・開発事業者を相互牽制の観点から分けています。SNS委託に同じ分離が常に必要という意味ではありませんが、高額・複数年度・複数事業者の案件や、客観的な再評価が必要な案件では、実行と評価を分ける選択肢があります。


担当者側に残る仕事は、投稿の確認だけではない

委託しても、自治体側から移せない仕事があります。政策目的の決定、予算と契約の説明責任、発信内容の最終的な公共性、個人情報・著作権・アクセシビリティへの対応、庁内の意思決定等です。


さらに、実務では担当者が次の接続を担います。

  • 観光、広報、移住、商工、文化、危機管理等の関係部門

  • 観光協会、DMO、施設、交通、宿泊、飲食等の地域関係者

  • 公式サイト、広告、予約、イベント等を担う別事業者

  • 管理職、契約・会計部門、情報セキュリティ部門

委託先に地域内の情報や決裁権限がなければ、素材不足、確認待ち、公開時期の逸失が生じます。これは担当者個人の能力不足と決めつける問題でもありません。兼務、人事異動、承認経路、部門間の権限分担など、組織設計が原因の場合があるためです。


デジタル庁の標準ガイドラインも、政府情報システムのプロジェクトについて、制度所管部門、業務実施部門、情報システム部門の主体的な参画や、関連組織間の役割分担を見直せる体制を求めています。SNSでも、運用担当者と委託先だけで、地域の供給情報、政策判断、危機対応まで完結させることは困難です。


原因を切り分ける6つの手順

1.成果不振が実在するかを確認する

指標の定義、計測期間、対象、過去比較、季節性、広告費、投稿本数、プラットフォーム仕様の変化を確認します。計測方法が変わっている場合や、比較期間が不適切な場合は、担当者や委託先の評価へ進みません。


2.SNSが担う役割を一文にする

「誰に、どのような情報・体験を提供し、次にどの行動または態度変化へつなぐか」を一文で示します。示せない場合は、運用改善より先に目的と媒体の再設計が必要です。


3.期待した仕事と発注した仕事を対照する

仕様書、提案書、契約書、実施計画、議事録、月次報告を並べます。期待していたが書かれていない仕事、書かれているが実施されていない仕事、両者の担当が曖昧な仕事を分けます。


4.直近5件程度の業務過程を時系列で追う

各投稿について、情報発生、素材提供、企画提出、修正、承認、公開、反応確認、改善提案までの日付と担当を記録します。平均値だけでは見えない滞留箇所が分かります。


5.成果の段階ごとに原因を分ける

症状

最初に疑うこと

主に確認するデータ

投稿が遅い

情報提供、承認、制作進行のどこで止まるか

工程別の日付、差戻し理由、未回答課題

対象者へ届かない

媒体、ターゲット、企画、配信の不整合

対象者別リーチ、広告設定、投稿別比較

反応はあるがサイトへ進まない

訴求と次の行動が不一致

保存・シェア、プロフィール遷移、リンククリック

サイトへ進むが予約・相談がない

ページ、商品、在庫、フォーム、受入対応

遷移先行動、離脱、予約可能日、問い合わせ対応

報告はあるが改善されない

分析・提案・決定の担当と会議設計が不明

提案履歴、決定事項、担当、期限、実施結果

6.原因仮説を一つずつ小さく検証する

一度に委託先、投稿方針、KPI、公式サイトを全て変えると、何が効いたか分かりません。4〜8週間など事業の更新頻度に合う期間を定め、承認時間の短縮、対象の絞り込み、導線改善、企画形式の変更等から、主要なボトルネックを一つ検証します。期間は一律ではなく、投稿頻度、季節性、母数に応じて決めます。


条件別に、誰が何を直すか

発注者側の修正を先に行う場合

  • SNSの目的や優先対象を決めていない

  • 素材・事実確認・承認が恒常的に遅れる

  • 受入ページ、予約枠、問い合わせ対応が整っていない

  • 契約外の戦略、調整、評価まで委託先へ期待している

  • 部門ごとに異なる指示を出している

この場合は、担当者の努力量を増やすのではなく、意思決定者、承認期限、情報提供責任者、他部門との窓口を定めます。必要なら業務量を減らし、維持できる範囲へ運用を縮小します。


委託先の改善要求を行う場合

  • 合意した期限や品質基準を繰り返し満たさない

  • 必要な分析・改善提案が仕様にあるのに、数値の転記で終わる

  • 誤情報、権利侵害、セキュリティ上の不備を防ぐ工程が機能しない

  • 合意済みの対象、表現、運用ルールを逸脱する

  • 課題を把握しても報告・協議せず、未解決のまま進める

まず契約と合意に基づき、是正事項、期限、確認方法を書面化します。改善期間を設けても反復する場合は、業務範囲の縮小、契約上可能な措置、次年度の再調達を検討します。


役割の境界を再設計する場合

  • 企画、承認、返信、分析の担当が重複または空白になっている

  • 仕様変更を誰が決めるか不明である

  • 複数の委託先が互いの作業待ちになっている

  • 委託先の提案に対し、自治体側で採否を決める人がいない

  • 緊急時だけ管理職や別部門が関与し、通常時の前提を覆す

この場合は、担当者か委託先の交代より先に、作業ごとの実行者、最終責任者、協議先、情報共有先を一枚にします。RACI等の名称を使う必要はありません。「作る人」「決める人」「相談する人」「知らせる人」が分かれば十分です。


SNS以外の対応が必要な場合

クリック後の離脱、予約不能、在庫不足、現地案内不足、問い合わせ対応の遅れ等は、SNS運用だけでは直せません。Web、商品造成、販売、施設、交通、窓口等の担当へ課題を移し、SNSは必要な範囲で支援します。


現時点では判定しない場合

データ欠損、指標定義の変更、短すぎる運用期間、外部ショック、サンプル不足がある場合です。追加データと判定日を決め、責任判断を保留します。情報不足のまま事業者交代を行うと、同じ発注設計を繰り返す可能性があります。


まず30日で行う実務手順の例

1週目は、目的、仕様書、提案書、実施計画、直近の報告書を照合します。成果指標だけでなく、作業範囲、提供条件、決裁者、変更手順を確認します。


2週目は、直近5件程度の投稿工程と、SNSから先の利用者導線を追います。自治体側と委託先側の作業時間、待ち時間、差戻し、未解決課題を分けます。


3週目は、最も影響の大きいボトルネックを一つ選びます。たとえば、承認に平均7日かかり旬を逃しているなら、制作会社の変更ではなく、事前承認できるテーマと即時確認が必要なテーマを分けます。


4週目は、次の検証期間、担当、判断基準を決めます。「改善する」ではなく、「誰が、何を、いつまでに変え、どの数値と事実で継続可否を判断するか」を議事録に残します。

評価では、SNSの成果指標に加えて、次の運用指標も確認します。

  • 情報提供から企画着手までの日数

  • 初稿提出から承認までの日数

  • 差戻し回数と理由

  • 予定日に公開できた割合

  • 未解決課題の件数と滞留日数

  • 改善提案の採否、実施、結果

  • 誤情報、権利、アクセシビリティ、苦情等の問題

  • 担当職員の時間外対応や、特定個人への依存

運用速度だけを上げ、確認を省いてはいけません。JNTOの2025年版Instagram活用ガイドラインは、組織としての運用ポリシー、運用スタッフへの周知、投稿前の第三者チェック等を推奨しています。自治体では、速度、公共性、正確性を同時に管理する必要があります。


すぐに委託先を変更しない方がよい条件

次の場合は、再調達だけでは改善しない可能性が高いと考えられます。

  • SNSを使う理由と役割が決まっていない

  • 現契約に含まれない成果を求めている

  • 自治体側の情報提供、承認、庁内調整が主な滞留要因である

  • 前任者の判断履歴、データ、アカウント権限が引き継がれていない

  • 成果を判定できる計測環境がない

  • サイト、予約、商品、受入体制に主な問題がある

先に目的、体制、導線、仕様を直さなければ、新しい委託先にも同じ問題が移ります。

反対に、目的と発注範囲が妥当で、必要な情報・承認も提供しているのに、合意した業務の不履行や品質問題が改善されない場合は、委託先の変更を現実的に検討できます。


見直し・縮小・停止の条件

次年度まで惰性的に継続せず、あらかじめ見直し条件を置きます。

  • 目的とSNSの役割を再確認した結果、他媒体や連携先の方が適している

  • 必要な庁内体制や受入環境を確保できない

  • 是正要求後も、重大または反復的な履行上の問題が続く

  • 事前に定めた改善検証を複数回行っても、主要な指標と利用者行動が改善しない

  • データ取得費用や運用負担が、期待できる政策上の価値に見合わない

  • 公共性、正確性、権利、セキュリティ等のリスクを許容水準へ下げられない

ただし「複数回」や評価期間に一律の基準はありません。投稿頻度、季節、対象者数、政策目的に応じて、発注時または改善開始時に定めます。


外部支援が必要になる場面

自治体と現委託先だけで原因を特定でき、役割と改善策に合意できるなら、新たな外部支援は不要です。


一方、次の場合は、現行運用から一定の距離を置いた診断、コンサルティング、PMO支援等を検討できます。

  • 発注者と委託先の主張が対立し、共通の事実を確定できない

  • 複数部門、DMO、観光協会、複数事業者の調整が必要である

  • SNSを続けるかどうかを含めて、施策の位置付けから再検討したい

  • 次年度仕様書と評価基準を、現行契約の評価から作り直したい

  • 実行事業者とは別の視点で成果とリスクを確認したい


この場合も、外部支援へ政策判断や説明責任まで移すことはできません。何を助言・管理してもらい、自治体側が何を決めるかを明確にします。


まとめ

SNS運用の成果が出ないとき、担当者と委託先のどちらかを直ちに原因とみなすべきではありません。


まず、政策目的とSNSの整合性を確認し、次に期待した仕事と実際に発注した仕事を照合します。その上で、自治体側の情報提供・承認・部門連携、委託先の履行・専門業務、両者をつなぐ課題管理と意思決定を順番に確認します。


代理店・運用事業者、コンサルタント、PMOは、名称ではなく役割が異なります。実行を求めるのか、診断と助言を求めるのか、複数主体の管理を求めるのかを分け、作業、成果物、権限、責任分界を仕様と実施計画へ落とすことが必要です。


原因を正しく分けられれば、担当者の交代や再調達だけに頼らず、目的の修正、役割の再設計、庁内連携、履行改善、他部門への課題移管、SNSの縮小・停止まで、状況に合う判断を選べます。


主要参考文献・参考資料

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