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2026~2030年度訪日マーケティング戦略の読み方:自治体・DMOのターゲット選定にどう生かすか

  • 5月12日
  • 読了時間: 14分

更新日:7月23日

本記事の要点


新戦略には、22の重点市場について、訪日経験、年代、所得、同行者等で分けたターゲット、訴求するコンテンツ、情報収集・予約行動、BtoB・BtoCの取組、地方誘客上の留意事項が整理されています。市場横断戦略では、高付加価値旅行、アドベンチャートラベル、今回新設されたガストロノミーツーリズムを扱い、これらとは別にMICE戦略を設けています。


自治体・DMO・観光協会にとって、これらは有用な基礎資料です。ただし、国・JNTOが日本全体の誘客に用いるターゲットを、そのまま自地域のターゲットに設定するための一覧表ではありません。


地域で選ぶべき市場は、国全体の市場規模や訪問意向だけでは決まりません。自地域へのアクセス、現在の宿泊・消費実績、販売できる商品、予約経路、受入能力、季節、地域への利益、住民生活への影響まで確認する必要があります。


本記事では、新旧戦略の変更点と継続点を確認した上で、新戦略を地域のターゲット選定、商品・受入整備、情報発信、評価へどう接続するかを整理します。


この資料を確認すべき人

特に確認する価値が高いのは、次のような組織です。

  • インバウンド向けの重点市場を見直す自治体・DMO

  • 国・地域別にSNS、Web、広告、商談会等を実施している観光協会

  • 「欧米豪」「高付加価値旅行者」等の大きな区分だけが決まり、具体的な旅行者像が定まっていない組織

  • 海外向け情報発信と、商品造成、予約、二次交通、現地対応が分断している地域

  • 地方誘客、旅行消費、閑散期、再来訪に関するKPIを見直す担当者

  • インバウンド事業の委託仕様書や年度計画を作成する自治体職員

一方、既に自地域のデータと現場情報に基づく戦略がある場合、新戦略に合わせてすべてを作り直す必要はありません。JNTOも、既存戦略の全面修正を求めるものではなく、現在の方向性、ターゲット、コンテンツ、手配方法等を再確認する材料としての利用を案内しています。


訪日マーケティング戦略の位置付け

新たな訪日マーケティング戦略は、2026年3月27日に閣議決定された第5次観光立国推進基本計画の政府目標を達成するため、観光庁、JNTO、地方運輸局、DMO、地方自治体等で共有し、戦略的な訪日プロモーションを進めるための文書です。


戦略期間は2026年度から2030年度までの5年間です。法令やDMO登録要件、公募要領ではなく、自治体やDMOへ特定市場の選択や施策の実施を法的に義務付ける文書ではありません。


上位にある第5次観光立国推進基本計画は、2030年の主な政府目標として次を掲げています。

政府目標

2030年の目標値

訪日外国人旅行者数

6,000万人

訪日外国人旅行者に占めるリピーター数

4,000万人

訪日外国人旅行消費額

15兆円

訪日外国人旅行消費額単価

25万円

訪日外国人旅行者の地方部における延べ宿泊者数

1億3,000万人泊

これらは日本全体の政府目標です。個々の自治体・DMOが同じ伸び率や指標をそのままKGI・KPIとして採用しなければならないものではありません。


また、基本計画上の「地方部」は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県を除く地域です。地域住民が日常的に使う「地方」や、各DMOのマネジメント区域と一致するとは限りません。基本計画自体も、三大都市圏内で旅行者の集中が顕在化していない地域への分散や、区分の見直しに言及しています。


したがって、国の「地方部宿泊者数」を、自地域の観光成果へ直接読み替えることはできません。


新戦略の全体構成

新戦略は、持続可能な観光の推進を念頭に、三つの戦略で構成されています。


1.市場別マーケティング戦略

22の重点市場について、市場全体の方針と、ターゲット別の戦略・戦術を示しています。

ターゲットは国・地域名だけではありません。訪日経験、年代、所得、同行者・旅行形態等を組み合わせています。さらに、各ターゲットについて次の情報が整理されています。

  • 訴求する主なパッション・コンテンツ

  • 旅行会社招請、商談会等のBtoB施策

  • Web、SNS、広告、メディア招請等のBtoC・BtoBtoC施策

  • 地方訪問意向、訪問経験、旅行消費、季節性等を踏まえた留意事項

  • 情報収集源、旅行手配方法、必要な実用情報

全体の方向として、東アジアとシンガポールではリピーターを通じた地方分散、その他の東南アジアでは初訪日層とリピーターの双方、米国・豪州・カナダでは市場の裾野拡大、欧州では初訪日層に加えて増加する訪日経験者や家族旅行層、インド・中東・メキシコ・北欧地域では市場特性に応じたコアターゲットへの取組が示されています。


2.市場横断マーケティング戦略

国・地域をまたいで扱うテーマとして、高付加価値旅行と特定テーマ旅行が整理されています。

高付加価値旅行は、訪日旅行1回当たりの総消費額が一人100万円以上の旅行を指し、国際航空券代は含みません。ただし、定義は金額だけではありません。地域の伝統・文化・自然に触れ、知識や着想を得ることを重視する旅行として説明されています。

取組は広告だけではなく、国内DMCと地域のネットワーク、サービスの収集、海外旅行会社へのセールス、ファムトリップ、ガイド人材等を含みます。

特定テーマ旅行では、従来のアドベンチャートラベルに加え、ガストロノミーツーリズムが新設されました。ガストロノミーツーリズムは、高級飲食店だけを指すものではありません。その土地の食材、習慣、歴史、食文化、生産者、料理人、器等のストーリーに触れる旅行として整理されています。


3.MICEマーケティング戦略

国際会議、インセンティブ旅行、基盤整備の三分野を扱います。国際本部、コアPCO、国内主催者、実施企業、旅行会社等、誘致段階ごとの相手を分け、地方開催の促進や専門人材育成を含む取組を示しています。

MICEは一般的な個人旅行の情報発信とは、意思決定者、検討期間、販売・誘致経路が異なります。自治体・DMOがMICEを対象とする場合、市場別の一般旅行者向け施策と同じ導線で扱わないことが必要です。


2023~2025年度の戦略から変わった点、変わっていない点

前回の訪日マーケティング戦略は、2023年度から2025年度までの3年間を対象としていました。新旧資料を比較すると、全面的な方向転換ではなく、基本構造を維持しながら市場変化と地域側の利用需要を反映した改定と捉えられます。


論点

2023~2025年度

2026~2030年度

計画期間

3年間

5年間

全体構成

市場別・市場横断・MICE

三部構成を継続

基礎となる市場状況

コロナ禍からの回復期に実施した調査

訪日客数がコロナ前を上回った2024年の22市場調査を反映

市場別戦略

市場の成熟度、消費、地方訪問意向等で設定

訪日経験者・家族旅行層等の変化を反映し、ターゲットを再設定

地域向け情報

ターゲット、コンテンツ、接触媒体、予約方法

「ターゲット攻略のための留意事項」を拡充

特定テーマ

アドベンチャートラベル、大阪・関西万博等

ATを継続し、ガストロノミーツーリズムを新設。GREEN×EXPO 2027等を追加

持続可能な観光

環境・文化・経済、住民への配慮を重視

基本的な考え方を継続


JNTOが2026年7月14日に公表した地域向け解説によると、今回の基礎調査は世界22市場の海外旅行者を対象に2024年に実施され、地方への訪問経験、訪問理由、都市部・地方部で求める内容等を従来より深く調査しています。


また、欧州を中心に訪日経験者や家族旅行層が増加したことを受け、新しいターゲットを追加したと説明しています。国別ページの表現が細かくなったのは、単なる記述量の増加ではなく、地域から「ターゲット像やプロモーションを具体化してほしい」という要望があったためです。


国の市場別戦略を、そのまま地域のターゲットにしない

新戦略は、日本全体から見た市場の可能性を判断する上で有用です。しかし、特定市場について「地方訪問意向が高い」「消費単価が高い」と記載されていても、その市場が自地域にとって優先市場であるとは限りません。

ここからは、資料を地域実務へ変換するための編集上の整理です。


国の戦略が主に示すのは、各市場の旅行者が日本へ何を求め、どのように情報を集め、どのように手配し、どのターゲットが地方訪問や消費へつながる可能性を持つかです。

一方、地域が追加で判断しなければならないのは、次の事項です。

  • その市場から自地域への訪問・宿泊実績があるか

  • 最寄りの国際空港や主要都市から到達できるか

  • 移動時間と交通費に見合う滞在価値があるか

  • ターゲットに合う商品を実際に予約・購入できるか

  • 旅行会社、OTA、DMC、公式サイト等の販売経路があるか

  • 言語、食、決済、案内、ガイド等の受入条件を満たせるか

  • 繁忙期に追加需要を受け止められるか、閑散期に需要を動かせるか

  • 消費が地域事業者や住民へ還元されるか

  • 情報発信と受入整備に必要な費用を継続できるか


市場ニーズと地域資源が一致していても、アクセスと販売経路がなければ来訪にはつながりにくくなります。反対に、現在の訪問者数が少なくても、航空路線、周遊ルート、予約可能な商品、地域の受入能力が整い始めているのであれば、将来の候補市場となる場合があります。


地域のターゲットを選ぶ7段階

新戦略は、次の順序で使うと、国の方針の転写や媒体先行を避けやすくなります。


1.地域として増やしたい成果を決める

まず、「インバウンドを増やす」ではなく、何を変えたいかを決めます。

  • 延べ宿泊者数を増やす

  • 一人当たり消費額を増やす

  • 平日・閑散期の需要を増やす

  • 特定地域への集中を緩和する

  • 初回来訪者を再来訪へつなげる

  • 特定の地域産業への消費を増やす

目的が異なれば、優先市場、旅行者像、商品、時期、測定指標も変わります。


2.現在の来訪・宿泊・消費を確認する

国別・地域別の宿泊者数、訪問地点、滞在日数、消費、季節、来訪経路を確認します。データが粗い場合は、宿泊施設、観光案内所、決済、Webアクセス、簡易アンケート等、取得可能な情報の範囲を明らかにします。

訪問者数が多い市場だけでなく、増加率、閑散期の比率、滞在日数、再訪、地域との相性を見る必要があります。


3.地域側の供給条件を確認する

コンテンツが存在することと、旅行商品として利用できることは別です。営業時間、催行人数、価格、予約期限、キャンセル条件、在庫、通訳、交通、決済まで確認します。

高付加価値旅行やガストロノミーツーリズムも、名称を付けるだけでは成立しません。誰が手配し、どの順序で体験し、どこへ消費が残るかを設計する必要があります。

4.JNTO戦略から候補市場・ターゲットを抽出する

JNTOの戦略ページから、自地域の目的と資源に対応しそうな市場を確認します。

国名だけで止めず、訪日経験、年代、所得、同行者まで確認します。同じ市場でも、初訪日層とリピーター、若年の一人旅と子連れ家族では、必要な情報、商品、移動条件が異なります。


5.候補を地域条件で比較する

候補市場は、次の観点で比較できます。

比較する観点

確認する内容

需要の根拠

現在の訪問・宿泊、伸び、検索、問い合わせ、地方訪問意向

コンテンツ適合

ターゲットの関心と地域で提供できる体験の一致

アクセス

航空路線、主要都市からの移動、二次交通、周遊可能性

販売可能性

予約可能な商品、OTA・旅行会社・DMCとの接続、在庫管理

受入能力

言語、食、決済、ガイド、繁閑差、事業者の対応余力

地域への便益

宿泊、消費、雇用、文化継承、地域事業者への波及

継続・測定可能性

予算、担当、データ取得、改善判断を継続できるか

すべての項目で高得点の市場を探す必要はありません。どこに強みがあり、どこを整備すれば成果へつながるかを明確にすることが目的です。


6.情報発信・販売・受入を一つの導線にする

新戦略には、SNS、Web、広告、インフルエンサー、メディア、旅行会社、OTA、商談会等が記載されています。これは、掲載された媒体をすべて使うという意味ではありません。

個人手配が中心のターゲットであれば、検索・SNSから交通、商品、予約、決済までの導線が必要です。旅行会社経由が重要なターゲットであれば、一般向け投稿を増やす前に、商品造成、料金、手数料、販売資料、DMC・旅行会社との関係を整える方が優先される場合があります。


7.成果を市場別・段階別に確認する

発信量や総リーチだけでなく、狙った市場の行動変化を確認します。

  • 対象市場からの訪問・宿泊・予約

  • 滞在日数、一人当たり消費、地域内の購入

  • 閑散期・平日の利用割合

  • 商品ページ閲覧から予約までの転換

  • 旅行会社の商談、商品造成、送客

  • 再来訪、再接触、推奨

  • 住民・事業者への影響

来訪まで時間がかかる市場では、認知、検討、商品造成、予約、来訪を分け、途中段階の指標を置く必要があります。


対象組織別の使い方

都道府県・広域DMO

複数市場の組合せ、国際空港・航路、広域周遊、地域間の役割分担を整理する材料になります。各市町村が同じ市場へ別々に発信するのではなく、入口となる地域、宿泊地、周遊先、テーマを分けることができます。


市町村・地域DMO・観光協会

22市場すべてを対象にする必要はありません。都道府県・広域DMOの重点市場を確認した上で、自地域で提供・販売できる商品と来訪経路に合うターゲットへ絞ります。

情報発信だけを担当している場合も、予約できない商品、運休中の交通、対応できない時間帯を発信しないよう、現場情報との更新工程が必要です。


地域事業者・地域商社

市場別の関心だけでなく、予約方法、旅行形態、価格、販売チャネルを確認します。自社商品を翻訳して掲載する前に、誰が、どこで、どの条件で買えるかを明確にする必要があります。

ガストロノミーツーリズムでは、飲食店だけでなく、農林水産業、生産者、加工、器、流通、地域文化を含む連携が想定されています。ただし、すべての食関連事業者が観光商品化しなければならないわけではありません。


誤解しやすい点

第一に、「国が重点市場にしている」ことは、「自地域でも最優先すべき」ことを意味しません。国全体の市場可能性と、地域の来訪可能性は別に確認します。


第二に、「地方訪問意向が高い」ことは、特定地域への訪問意向や実際の予約を示すものではありません。地域名の認知、アクセス、商品、販売経路が必要です。


第三に、「SNSの利用率が高い」ことは、SNS投稿だけで誘客できることを意味しません。旅行会社、OTA、検索、口コミ、公式サイト等を含む旅行者の意思決定・手配過程を確認します。


第四に、「高付加価値旅行」は、既存商品を値上げすることや、富裕層向けの豪華な表現へ変更することではありません。高い支出に見合う地域固有の価値、手配、ガイド、移動、サービスの連続性が必要です。


第五に、「ガストロノミーツーリズム」は高級料理だけを対象としていません。新戦略は、食材、習慣、歴史、生産者、調理法、器等のストーリーを含め、高級レストランだけに焦点を絞らないよう明記しています。


過剰に反応しなくてよい点

新戦略の公表だけを理由に、既存の地域戦略を全面改定する必要はありません。まず、現在のターゲットと新資料の記載が一致するか、見落としていた旅行者層があるかを確認すれば足ります。

22市場すべてについて、多言語サイト、SNS、広告を用意する必要もありません。限られた人員・予算では、成果へつながる可能性と受入条件の高い市場へ集中する方が合理的です。

また、国が旅行消費額、リピーター、地方宿泊を重視しているからといって、すべての地域が同じ指標を同じ比重で追う必要はありません。日帰り周遊の拠点、宿泊地、ゲートウェイ、特定産業の体験地では、役割と測る成果が異なります。


現時点で資料だけでは分からないこと

新戦略は市場全体の理解に有用ですが、個別地域について次の事項までは示しません。


  • 特定市場から各市町村への潜在需要量

  • 地域別に投下すべき広告・営業予算

  • どの市場を選べば最も高い費用対効果が得られるか

  • 各地域の商品・交通・受入能力が需要に耐えられるか

  • 情報発信と実際の来訪・消費との因果関係

  • 地域住民や事業者が許容できる来訪量


基礎調査は海外旅行者へのアンケートを含む複数の資料とJNTOの知見から作られています。調査で示された意向と、実際の特定地域への行動は同一ではありません。地域の統計、予約、現場の聞き取りと組み合わせて判断する必要があります。


まとめ

2026~2030年度の訪日マーケティング戦略は、22市場の旅行者を国名だけでなく、訪日経験、年代、所得、同行者、関心、情報収集・予約行動まで分けて理解できる資料です。


前回戦略の基本構造と持続可能な観光の考え方を引き継ぎながら、コロナ後の市場変化、地方訪問、欧州等のリピーター・家族旅行層、ガストロノミーツーリズム等を反映しています。


地域に必要なのは、国のターゲット一覧から一つを選ぶことではありません。地域として増やしたい成果を決め、現在の需要、アクセス、商品、販売、受入能力、地域への便益を確認した上で、新戦略を候補市場の理解と検証に使うことです。


その上で、情報発信、旅行会社への営業、商品予約、現地体験、再来訪までを一つの導線として設計し、狙った市場の行動が変化したかを確認する必要があります。


原資料・関連資料

最終確認日:2026年7月14日

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