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自治体SNS、その「公共性」をどう守るか

  • 2025年5月8日
  • 読了時間: 9分

更新日:3月12日

本記事の要点

  • 自治体SNSは、単なる集客手段としてではなく、公共性を伴う情報発信の場として考える必要があります。

  • 本記事では、自治体SNSがなぜ難しいのか、SNSの双方向性が何をもたらすのか、そして公共性をどのように捉えるべきかを整理します。

  • 投稿改善の前に、自治体SNSという媒体の性質そのものを捉え直したい方に向けた内容です。


SNS運用を、投稿の工夫ではなく前提設計から考える

自治体がSNSを運用する目的は、単にフォロワーを増やすことでも、話題になることでもありません。本来問われるべきなのは、その発信が地域や住民、関係人口、来訪者に対してどのような価値を持ち、どのような形で信頼や行動につながるのかという点です。


しかし実際には、自治体SNSの現場では次のような悩みが少なくありません。

  • フォロワーは増えているが、来訪や参加につながっている実感が薄い

  • 何をどこまで発信してよいかの判断基準が曖昧である

  • 特定の事業者や場所を取り上げる際に公平性が気になる

  • 炎上や批判を恐れるあまり、無難な投稿しかできなくなっている

  • 担当者の熱意に依存し、異動後に運用が続くのか不安がある


こうした課題に対し、株式会社Kerzeは、投稿内容やクリエイティブの改善だけで解決しようとは考えていません。私たちがまず見るのは、そのアカウントが何のために存在し、何を守り、何を成果とみなすのかという前提です。


SNSは便利な発信手段です。一方で、自治体が使う以上、民間企業の販促アカウントと同じ発想では運用できません。そこには必ず、「公共性」という論点が立ち上がります。

本記事では、自治体SNSにおいてなぜ公共性が重要なのか、何が難しさを生むのか、そしてそのうえでどのように考えるべきかを整理します。


SNSが自治体にもたらす価値は、単なる拡散力ではない

SNSが自治体にとって有効な理由は、低コストで広く情報を届けられるからだけではありません。より重要なのは、従来の広報媒体では得にくかった双方向性を持つことです。


ホームページや広報誌、ポスター、テレビCMは、基本的に一方向の情報伝達である。それに対してSNSでは、発信に対する反応が可視化され、住民や来訪者、地域に関心を持つ人々の声が即時に返ってくる。コメント、保存、シェア、メッセージ、閲覧傾向といった反応は、単なる数字ではなく、「何が届き、何が届いていないか」を知る手がかりになります。


自治体にとってこの価値は大きい。なぜなら、行政が届けたい情報と、受け手が知りたい情報は、しばしば一致しないからです。SNSは、そのずれを観測し、発信のあり方を調整するための貴重な接点になり得ます。


また、接触回数を継続的に確保できる点も重要です。日常的にその地域の情報に触れることで、住民の理解や愛着、域外の人々の関心は少しずつ形成されます。自治体名や地域資源が想起される状態は、一度の大きな広告ではなく、継続的な接触の積み重ねから生まれることが多い。SNSはその接点を持続的につくれる媒体です。


ただし、この価値は「運用すれば自然に生まれる」ものではありません。双方向性も接触蓄積も、前提設計がなければ、むしろ混乱や負荷を増やす方向に働きます。


自治体SNSが難しいのは、「公共性」が常に問われるからである

自治体SNSの運用が難しい最大の理由は、発信が常に公共性の観点から見られることにあります。

ここでいう公共性とは、単に「万人受けすること」ではありません。少なくとも、以下のような要素が関わります。

  • 正確性

  • 公平性

  • 中立性

  • 説明可能性

  • 継続性

  • 組織としての妥当性

民間企業であれば、ある程度はブランドの方向性や売上目的に沿って、表現や訴求を尖らせることができます。しかし自治体は、公的主体である以上、「誰をどのように取り上げるか」「何に反応するか」「どのような言葉を使うか」が、そのまま姿勢として受け取られます。


例えば、地域の魅力を伝えようとして、特定の飲食店や施設ばかりを繰り返し紹介すれば、「なぜそこだけなのか」という疑問が生じます。コメント対応においても、ある人には丁寧に返し、別の人には返さないという運用を続ければ、公平性への疑念が生まれます。場を和ませようとした表現やユーモアが、一部の人には軽率、あるいは配慮不足と映ることもあります。


つまり自治体SNSでは、発信内容そのものだけでなく、発信の判断基準が問われるのです。

この難しさを無視して「民間で伸びているやり方をそのまま持ち込む」ことは危険です。一方で、批判を恐れて無難な情報だけを流し続ければ、今度は誰にも届かないアカウントになります。自治体SNSに必要なのは、攻めるか守るかの二択ではなく、「何を守り、どこで届かせるか」の設計です。


自治体SNSが陥りやすい典型的な罠

自治体SNSでは、いくつかの典型的な失敗が繰り返し起こります。これらは担当者個人の問題というより、設計不足の結果として起こることが多いものです。


1. フォロワー数や反応数が目的化する

SNSでは数字が見えやすいため、どうしてもフォロワー数、再生数、いいね数が注目されます。しかし、それらはあくまで一部の指標にすぎません。住民理解が深まったのか、イベント参加や来訪につながったのか、地域との接点が厚くなったのかが不明なままでは、数字が動いていても成果とは言えません。

特に自治体の場合、数字が大きいこと自体が価値なのではなく、行政目的や地域目的にどう接続しているかが重要です。


2. 特定対象への偏りが生まれる

話題になりやすい場所、写真映えする場所、反応が取りやすい事業者ばかりを取り上げていると、情報の偏りが生じます。これは単に「バランスが悪い」という話ではなく、公共的な主体としての説明可能性を損ねる問題です。

重要なのは、何を掲載するかより前に、どのような基準で掲載するかが定まっていることです。


3. 運用が属人化する

SNSは、熱意のある担当者がいると一時的に伸びやすい。しかし、その人の感覚や個性に依存した運用は、異動や退職とともに簡単に崩れます。

自治体に必要なのは、個人の才能に賭ける運用ではなく、判断基準や運用ルールが残る状態です。親しみやすさも、担当者のキャラクターではなく、組織としての文体や姿勢として設計されるべきです。


4. 炎上や批判を恐れるあまり、発信が弱くなる

公共性を意識することは重要です。しかし、批判回避が実質的な最上位目標になると、発信は急速に弱くなります。

何も問題を起こさないことと、価値ある発信を続けることは同じではありません。重要なのは、どこまでを避けるべきリスクとみなし、どこからを必要な挑戦とみなすかを、組織として定めておくことです。


公共性を守るとは、「何もしないこと」ではない

自治体SNSにおける公共性は、しばしば制約として語られます。それ自体は間違いではありません。しかし、公共性は本来、「発信を止める理由」ではなく、「発信の妥当性を支える基準」として扱うべきです。


例えば、特定事業者の紹介が問題なのではありません。なぜその対象を紹介するのか、その基準があり、説明可能であり、継続的運用に耐えるかが重要です。

コメント対応でも、すべてに個別返信することが正しいわけではありません。どの種別の問い合わせにどう対応し、どこからは公式窓口やFAQへつなぐのかが整理されていれば、むしろ組織として安定した対応が可能になります。

公共性とは、曖昧な自制心ではなく、判断基準の言語化です。そこが明確であれば、必要以上に萎縮せずに運用できます。


私たちが、すぐに「SNS運用から始めましょう」と言わない理由

Kerzeは、広告運用やSNS運用そのものにも関わってきました。一方で、相談を受けた際に、常に「まずSNSを強化しましょう」とは言いません。

なぜなら、課題の多くはSNSという施策の中ではなく、その前にある構造にあるからです。

  • 何を目的とするのか

  • 誰に届けたいのか

  • 公共性をどう定義するのか

  • どの範囲まで裁量を持つのか

  • 何をもって成果とみなすのか

これらが曖昧なままでは、どれほど投稿を工夫しても、運用はやがて迷走します。逆に、これらが定まれば、SNSは初めて持続的に機能する手段になります。

私たちが重視しているのは、施策単体の改善ではなく、その施策が成立するための前提を整えることです。これは自治体SNSに限らず、事業全般に対して一貫して持っている姿勢でもあります。


Kerzeが自治体・関連団体支援で見てきたこと

私たちは、自治体や関連団体に対して、単に投稿をつくるのではなく、運用の前提設計やマネジメントの部分から関わってきました。


長崎県波佐見町では、商工観光課および企画情報課に対し、公式Instagramの戦略立案支援や運用マネジメント支援を継続的に行ってきました。また、益子町観光公式アカウントを運営する一般社団法人ましこラボに対しても、定常業務設計、仮説検証の進め方、地域内事業者向け講習の提供など、初期フェーズの構造整備に関わってきました。


ここで重要なのは、支援の中身です。私たちが一貫して重視してきたのは、「何を投稿するか」だけではなく、「その運用がなぜ成り立つのか」「どうすれば継続可能になるのか」「担当者個人に依存せずに回せるのか」といった設計の部分でした。


自治体SNSを投稿の問題としてだけ捉えている限り、改善は表層にとどまります。実際の現場で繰り返し見てきたのは、成果の差が投稿の巧拙よりも前段の整理状況によって左右されるということです。だからこそ、私たちは構造から見る立場を取っています。


おわりに

自治体SNSを「手段」ではなく「設計課題」として捉え直す

自治体SNSは、うまく使えば、地域との関係を深め、理解を促し、来訪や参加のきっかけをつくる有力な接点になります。一方で、目的、公共性、運用体制、評価指標が未整理なままでは、現場の疲弊と無難な発信だけが残ります。


重要なのは、投稿の前に前提を整えることです。何を届け、何を守り、何を成果とするのか。そこが定まって初めて、SNSは自治体にとって意味のある手段になります。


Kerzeは、自治体SNSを単なる運用の問題とは考えていません。その前提にある構造を整理し、持続可能な運用の形に落とし込むことから支援しています。

もし現在、

  • フォロワーは増えているが成果実感が薄い

  • 公共性とマーケティングの線引きが曖昧である

  • 発信が担当者依存になっている

  • 何を指標として追うべきか定まっていない

といった課題があるなら、一度、前提から見直す必要があるかもしれません。


自治体SNSの運用を、投稿改善の問題としてではなく、構造設計の問題として捉え直すこと。そこからしか、本質的な改善は始まりません。


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